今日ご紹介するのは、デヴィッド・バトラー監督の「モロッコへの道」(1942年、ROAD TO MOROCCO)。ビング・クロスビー、ボブ・ホープ、ドロシー・ラムーア共演のコメディ“珍道中”シリーズの第3作である。

 

密航者として貨物船に乗船していたジェフ(クロスビー)とターキー(ホープ)だったが、ターキーが船内の「Powder Room」(爆薬庫)を化粧室と間違えてタバコをくわえたまま入り、船は爆発・沈没する。

 

モロッコに漂着した2人はラクダで街に向かう。途中、歌も挿入され、のんびりした味わいで展開する。空腹に耐えかねて無銭飲食する2人だが、腹ペコが我慢できず、上陸したカラミーシュの町で金もないのに飲食した2人だが、ジェフは200ドルでターキーを奴隷に売る。

 

ジェフの死んだ叔母ルーシーが枕元に出て、親友を売り渡したジェフを責める。ルーシーおばさんはボブ・ホープの二役だが、ときどき出てきてジェフに忠告する。

 

ターキーを救おうと探しに出かけたジェフは、シャルマア姫(ドロシー・ラムーア)と熱々ムードで、しかも姫はジェフを夫にしようとしていた。

 

ロミエとジュリエットのシーンみたいだが、親友を売ったことも忘れて嫉妬に燃えたジェフが、歌を歌って姫に猛アタックしている。

 

ここで歌われる「Moonlight Becomes You」(ジミー・ヴァン・ヒューゼン作曲、ジョニー・バーク作詞)はジャズスタンダード曲としていろんな人が歌っているが、私は演奏したことはない。ちなみに、全体の音楽はヴィクター・ヤングである。

 

実は、シャルマア姫の婚約相手はカシム王子(アンソニー・クイン)で、占い師から「最初に結婚した男は一週間で死ぬ」と言われたため、ターキーに白羽の矢が立ったのである。

 

ターキーに一目ぼれした姫の侍女ミヒルマア(ドナ・ドレイク)は、姫の計略を彼に打ち明ける。ターキーは姫の婚約者の座をあっさりジェフに譲る。ユーモアたっぷりのシチュエーションコメディだ。

 

カシム王子は姫との結婚の祝宴を始める。投獄されていたジェフとターキーを侍女ミヒルマアが助け出し、2人はカシムが招待した敵対する部族長(モンテ・ブルー)が侮辱されて怒るようなさまざまな仕掛けを凝らす。ここは唯一のドタバタシーンで、

 

あまりのくだらなさにラクダまで溜息をつく始末。

 

騒ぎに乗じて逃げ出した4人は客船でアメリカに向かうが、またしてもタバコを吸いにパウダールームに入り、

 

ニューヨークを目前に漂流するという、イントロと同じネタで締めくくる。

 

公開当時の日本の観客がどれだけ笑ったかは窺い知れないが、歌あり笑いありの実に楽しい一作である。