今日ご紹介するのは、「懲罰」 (1980年、The Magnificent 3)である。日本では劇場未公開だが、「カンフー大作戦」の邦題でDVD化されている。冒頭はドミニカ共和国に観光でやってきた倉田保昭がタクシーに乗っているシーンから。この映画、例によって安っぽい娯楽アクションではありながら、実に多くの、指導者レベルの武術家が出ている。しかも日本人武術家たちの共演が見られる貴重な作品だ。監督の門見隆(キャノン・マン)も、知らないけど日本人のようだ。

 

主役はこの3人。左から、飲食店の厨房の雑用でうんざりしている潘健君(トニー・プーン)、空手選手権で優勝した褒美でドミニカにやってきた倉田さん、そして塗装工の山下タダシである。

 

ディスコのシーンでは、第1回世界ディスコ選手権優勝者のテディ団がパフォーマンスを披露した後、塗装工の山下タダシをきっかけに会場は乱闘騒ぎとなり、

 

牢獄に入れられたことで、面識のない3人の仲間意識が芽生えていく。

 

保釈金を払って彼らを釈放させたのは元スペイン陸軍の総司令官で、彼の弟がマフィアの娘を妻にもらったおかげで母親を追い出し、懲らしめるために3人を雇う、という何とも突拍子もないストーリーだが、

 

前半は彼らのパーティで銅像を裸像にすり替えたり、

 

女装してメイドに化けて潜入したり、とコメディタッチ(あくまでコメディタッチであって、コメディとして笑えるシーンはないけど)で他愛なく展開する。まあ、こんな映画、誰も観たくないよ、と退屈してくる頃合いを見て、

 

彼らのプロジェクトを阻止する弟夫婦側の側近、鹿村泰祥が登場する。

 

まあ、日本人武術家同士のアクション、楽しくないわけがない。

 

鹿村泰祥とコンビを組んでローラースケートを駆使して闘っているのは、倉田先生のお弟子さんの中村勇だったりする。

 

後半はほとんどトップクラスのアスリートとのアクションで埋め尽くされるが、元世界キックボクシングチャンピオンのハワード・ジャクソンと山下タダシとの対戦など、単なる映画の中でのアクションというより、試合そのものを観ているような感じである。カメラワークにも凝らず、武術家としての1対1の真剣な勝負を次々と見せる。山下タダシはブルース・リーのような怪鳥音を発しながら闘う。

 

ラスボスには、アメリカン・ボディビル世界チャンピオンのネイサン・ルブラン3世を配している。鍛え抜かれた筋肉は、あの倉田さんのパンチやキックにびくともしない、という設定。

 

1人では到底太刀打ちできず、3人がかりで立ち向かうことになる。荒唐無稽、子供騙しのストーリー展開ではありながら、出演者の顔ぶれだけで楽しめる人たちにとっては、美味しい格闘シーン満載の実に楽しい映画でもあろう。

 

映画館に足を運ぶのが楽しくて仕方なかった70年代、ハリウッドのディザスター映画、日本のATG作品、さらには寅さんに対抗して東映が作ったトラック野郎シリーズなど、地方でも毎月バラエティに富んだ映画がかかっていた。そんな中、マイナーな映画館では、ブルース・リーブームにあやかって、知らないような功夫映画の三本立てなどをやっていた。1本でも退屈するような映画を3本も見せられるので、館内でも寝ていた人が少なくなかったようだが、この年齢になってこんな映画を観ていると、当時の退屈さが懐かしくよみがえってきたりする。今後、こういう映画だけをのんびり観続けて一生を終えるのもいいんじゃないか(笑)と本気で思ったりもするが、長年の慌ただしかった生活から解放されつつあるこの年齢になってこその気持ちである。若い方たちには、もっといい映画をたくさん観ていただきたい。