最近、真面目な映画ばかり観ていて、たまにはC級のくだらない映画も紹介したくなった。そもそもこのブログは「しょーもない、退屈な映画」に突っ込みを入れながら愛でる、というのが楽しくてやってきたとも言えるんである。ということで、今日は侯錚(ホウ・チェン)監督の「怒髪衝冠」(Unsubdued Furies)を紹介したい。日本では劇場未公開だが、「激怒の鉄拳」の邦題でDVD化されている。ただし、アナログ映像のままで、画質は著しく悪い。ちなみに、テーマ曲は「大いなる男たち」、劇伴は「荒鷲の要塞」がふんだんに使われ、「ダーティハリー」なども用いられてます。いいのか。

 

海外留学から帰国した主人公のシャオホワ(鄧光榮、アラン・タン)が久々に故郷に帰ると、家は荒れ果て、村も日本軍に支配されていた。

 

日本軍は弾薬に使うタングステンを我が物にし、中国人たちに採掘を強制していた。日本人たちに邵羅輝、李強、潘章明ら。

 

そして、彼らを率いる責任者の中村を倉田保昭が演じている。

 

過酷な労働から脱走した中国人たち(余松照と白一峰)から事情を聞いたシャオホワは日本人の身勝手を阻止するために共に闘おうと呼びかけるのだが……。

 

ストーリーに絡んでくるのが、中村こと倉田保昭の妹、職場の病院の院長をしている芸子(日本人なんだけど凄い名前)だ。唐寶雲(タン・パオユン)演じる芸子は、

 

学生時代からシャオホワと恋仲で、結婚を約束していた関係だったが、兄の倉田が反対し、別れることになったのである。

 

シャオホワが乗った列車が駅を離れていくのを芸子が追いかけるベタなシーンもある。こういうシーンには決して感動しないのがこの手の映画の特徴かもね。

 

シャオホワの抵抗もあって、タングステンの採鉱は進まず、倉田に代わって新しいボスがやってくる。韓英傑(ハン・インチェ)の登場である。

 


シャオホワは日本人たちにコテンパンにされ入院するが、彼の面倒を見る看護師が易虹(イー・ホン)だ。安っぽい作品には欠かせない(笑)、個人的にはお気に入りの女優である。新しいボスの韓英傑が採鉱作業の妨げとなっているシャオホワを見つけて殺そうとしていると知り、彼女は

 

死体一時安置所(これが?)にシャオホワを隠す。おかげで彼は見つからなかったが、ボスは彼女をレイプしてしまう。

 

傷心の易虹だが、クライマックスでは、中国人たちを爆破するためのダイナマイトの導火線の火がどうしても消えず、仲間を救うためにダイナマイトを抱えて崖から飛び降りて死んでしまう。「ダイナマイトだけ崖から放り投げれば、死ななくても済む話なのに……」という突っ込みを抑えることも、この手の映画のファンに求められるマナーであろう。

 

アラン・タンのアクションには見るべきものはないが、倉田保昭と韓英傑が出ているので、アクションで興醒めするということはない。ただ、シンプルなストーリーだけに、ちょっと捻った部分はことごとく不自然に感じられる。

 

倉田の母親(郭萍)が死ぬ間際の回顧シーンで、「実は私は日本人でなく中国人だったの」と言い残すのは、映画の別題「我是中國人」(私は中国人です)が示しているとおりである。

 

これは、敵役の日本人として登場した倉田を、最後は悪役でなく主人公たちを助けて死なせるための強引な設定である。原題の「怒髪衝冠」とは、激しい怒りのあまり、髪の毛が冠を突き上げる様、つまり、中国人が日本人に対する怒りを爆発させる映画なんだけど、この兄妹が日本人のままだと、こういうシーンも成り立たなくなるのかな。抗日映画はいろいろ考えさせられます。

 

タン・パオユンは、いわゆる美人女優の1人だが、離婚後、不安定な精神状態の影響もあって入院するなどし、55歳で他界している。

 

10代から活躍し、功夫映画ではアクションもこなせる女優だっただけに残念だ。私のブログでは「神髄」で紹介しているが、次回も彼女と倉田保昭のコンビが出演する作品を紹介したい。