見ているのにブログでは紹介していない映画がいくつもあり、自分のブログを検索していて、「あれっ、ないじゃん」と気づく次第。今日はそんな映画の1つ、「山の郵便配達」(1999年、那山那人那狗)を紹介したい。1980年代初頭、年老いた郵便配達人と、その仕事を引き継ぐ息子との3日間を描いたドラマだ。監督は霍建起(フォ・ジェンチイ)。「ションヤンの酒家(みせ)」は紹介していて、本作はなぜか紹介してなかった。

 

湖南省の山岳地帯で、重たい郵便袋を背負って3日間かけていくつかの村を徒歩で回る仕事は過酷だ。長い年月、郵便配達人を務めた父親(滕汝駿、トン・ルーチュン)は、その仕事を息子(劉燁、リウ・イエ)に引き継ぐために担当地域を一緒に回る旅に出る。

 

長年、夫の仕事を見守ってきた妻に趙秀麗(ジャオ・シィウリ)。

 

郵便を楽しみにし、父親の最後の配達に集まってくる村の人たち。

 

盲目の老婆(龔業珩、ゴォン・イエハン)のもとに定期的に届く息子からのお金。書かれていない手紙を老婆のために読んでやる父親は、その役目も息子に託す。

 

侗族の娘(陳好、チェン・ハオ)と息子のつかのまのふれあいも描かれる。

 

父は流れのある川を歩いて渡ることはできなくなっている。息子は父を担いで父の軽さに老いを感じる。

 

.

父は息子の肩車をしていた時代を思い出し、息子の成長と自分の老いを実感する。

 

二泊三日の道中で隔たりのあった父子の距離が縮まっていく。ストーリーを紹介するほどのこともない実にシンプルな展開だが、親子や家族の絆をお涙頂戴のメロドラマのように描いていないので、わざとらしさを感じない。起伏のない淡々とした描写がむしろ心に響くことを示すような作品だ。

 

俳優たちも悪くないが、ピカイチなのは、次男坊と呼ばれる犬の存在だ。長い間、父親の配達に寄り添い、今回も不慣れな息子をリードするが、一番美味しいところを持っていった感がある。中国金鶏賞(中国アカデミー賞)の最優秀作品賞、最優秀主演男優賞のほか、モントリオール映画祭の観客賞、インド国際映画祭の銀孔雀賞などを受賞しているが、私はこのワンちゃんに最優秀助演犬優賞を贈りたい。

 


近くをバスや車が通り、「車で走れる道があるのにな、人家もない道を歩く必要があるの?」「バスは郵便配達の役には立たない」というやりとりをするシーンがある。息子の代になると山岳地帯を何日もかけて徒歩で配達しなくて済むようになることを示唆しているのだろうか。話は脱線するけど、私の実家は、当初は高台にある団地のふもとまで、舗装されていない道路をバスが走っていたが、そのうち道路は整備され、団地の中にバス停も出来、さらに新交通システムが開通した。近くに銀行やスーパーも出来て景色は一変したが、町の発展とともに住民の高齢化も進み、団地自体は廃れてしまった。私の実家も、両親ともに他界して誰も住んでいない。

 

親子の情だけでなくいろんなことを考えさせられる一作であった。