今日ご紹介するのは、マックス・オフュルス監督の「魅せられて」(1949年、Caught)である。読んでいただいている皆さんに面白くないブログを「読まされて」にならないよう頑張ります(ホンマか)。

 

マネキンをしている同僚とルームシェアをし切り詰めた生活をしながらマナースクールに通って、玉の輿を夢見る主人公の運命を描いたドラマだ。

 

主人公のレオノラはちょっと田舎臭さの残る女性だ。演じたのは、バーバラ・ベル・ゲデス。役柄とイメージぴったりじゃん。

 

パーティーで知り合った実業家で大富豪で知られたスミス・オーリグ(ロバート・ライアン)になんと求婚され、夢見ていた玉の輿にいきなり乗ることになる。

 

使用人を抱え、優雅で何一つ不自由のない暮らしに、かつての同僚のマキシン(ルース・ブラディ)は羨ましい限りだが、レオノラは沈んだ表情だ。夫のスミスは仕事一筋。妻に愛情を注ぐどころか、妻を顧みることすらない。来客は多いが、甲斐甲斐しく動き回って彼らをもてなす良妻を演じて欲しいだけに見える。

 


そんな毎日にすっかりうんざりしてしまったレオノラは家を飛び出し、ロサンゼルスで貧しいアパート暮らしをしながら、小児科医ラリー(ジェームス・メイソン)と産婦人科医が経営する小さな診療所で受付の仕事を始める。

 

夫スミスに居所を知られ、反省と謝罪の言葉を信じて一度はロングアイランドの大邸宅に戻るが、スミスが気にしたのはやはり世間体だけであった。彼女の存在価値は何一つは変わらず、レオノラは診療所に復帰し、徐々にラリーと親しくなる。ラリーはレオノラに求婚するが、その直後にレオノラは姿を消してしまう。

 

レオノラを探し当てたラリーはスミスと面会するが、彼女が大富豪スミスの妻であることを初めて知らされる。

 

スミスは実は精神分析医(アート・スミス)のカウンセリングを受けており、そこでも怒りを爆発させるシーンなど、レオノラが巡り合った運命の人が実はどんな人間かがしっかり描かれている。

 

ラリーと同じ診療所にいる産婦人科医のホフマン(フランク・ファーガソン)も脇役として光っている。富豪の大邸宅での辛い日々を送る主人公と、慌ただしいが週給わずか25ドルの診療所の仕事に充実感を覚える主人公の対照的な表情も印象的だ。

 

富豪だが暴君の夫と別れてラリーと一緒になりたいレオノラ。しかし、スミスの子供を宿していることが判明し、スミスは「どうしても別れたければ子供を自分のものにする」。リオノラを一生苦しめたいと伝え、憎悪をむき出しにする。

 

あらすじだけ追うと、一見よくあるメロドラマと変わりはなさそうだが、マックス・オリュフス監督の素晴らしい演出でサスペンスタッチで面白く見られる一作である。これが日本では劇場未公開とは信じられないほどだ。

 

この映画を妻に見せたら、玉の輿に乗って精神的に破綻した男の犠牲になるよりは、貧乏でも今の生活がいいでしょ、と言いやすいな。「精神的に破綻していなくても、最近ボケてるじゃん」と言われそうだけど……。