前回も書いたけど、「観たい」と思うようなDVDを買えば、いつまでも開封しないままだと気になるから、いずれ観るだろう。そんなへんな了見で選ぶと、どうしても巨費を投じた大作や話題作は外れてしまうのだが、今日は前回に続いて、そんな中の1本をご紹介したい。

 

ご紹介するのは「不意打ち」(1964年、Lady in a Cage)である。エレベーターに閉じ込められた女性の恐怖を描いたものだ。監督のウォルター・E・グローマンはTVMが多くて、映画では「ブルーライト作戦」くらいしか見ていないが、彼が「633爆撃隊」と同じころに撮った作品である。

 

のっけから、ソール・バスを意識したようなオープニングタイトルと音楽のポール・グラスの不協和音に魅了される。「面白そうだな」という期待感ではなく、「個性的な映画のようだな」と思わせるオープニングである。

 

浮浪者などもいる品も柄も悪い町に、なぜか孤立するかのような大邸宅があり、そこで30歳の独身の息子(ウィリアム・スワン)と2人で暮らす裕福なヒルヤード夫人が主人公だ。しばらく留守にする息子を送り出す冒頭のシーンだが、息子は「死にます」という置手紙を残して出かける。

 

夫人役を演じたのはオリビア・デ・ハヴィランド。「風と共に去りぬ」で一世を風靡した彼女はこのときまだ50歳手前である。60歳過ぎても「エアポート'77」や「スウォーム」などに出てたな。

 

70年代のTVMの「恐怖のエレベーター」が個人的にはすごく印象に残っているが、ここでのエレベータは自宅内のこんなエレベーター。4カ月前に腰を骨折し、階段の上り下りができず臨時に設置したものだが、これが突然、電気トラブルで3メートルくらいの高さで停止し、夫人は外に通じる非常ベルを鳴らす。

 

それを聞いて入ってきたのはアル中の浮浪者(ジェフ・コーリー)だ。夫人を助けるどころか娼婦(アン・サザーン)を呼んで、高価な調度品などを盗み出そうとする。

 

これを知った3人の若者。愚連隊とでも言うのかな。彼らが屋敷で好き放題を始める。この3人に、ジェニファー・ビリングスリー、ラファエル・カンポス、そしてリーダー的存在が、

 

なんと20代半ばのジェームス・カーン。これが映画デビュー作だろうか。何をしでかすか分からない狂気に満ちた若者を演じて印象的だ。

 

エレベータに閉じ込められるという設定だから、ついサスペンスや恐怖を期待してしまうが、この映画は、目の前で繰り広げられる悪夢と、逃げよう助かろうと髪を振り乱し、胸をはだけ、叫ぶ主人公の迫真の演技というか女優魂のようなものが、見どころになっている。