昨夜遅くこのDVDを観て、その余韻でなかなか寝付けなかったんである。キン・フー恐るべし。



迎春閣之風波


キン・フーの作品は、「残酷ドラゴン・血斗! 竜門の宿」(1967)など一部を除いてほとんど日本で公開されていないものばかりだが、DVD化された「大酔狭」(1966)などは、京劇のような美しさで観る側を惹き付ける大好きな映画である。73年の「迎春閣之風波」は、1366年の中国の迎春閣という宿を舞台に、元朝側の権力者とそれに抵抗する朱元璋側の仲間たちとの機密文書を巡って繰り広げられる攻防を描いたものだ。一筋縄ではいかない悪人リー・チャーハンと腕の立つ妹(演じたのはシュー・フォン)の存在感と雰囲気がいい。それに対抗する宿の女将もいいし、4人の若い女給仕たち(アンジェラ・マオほかの女優陣が素晴らしい)も華を添えるし、そのほか、急遽雇われた2人の男(ハン・インチェの役どころがいい)、彼らの動向を探るために潜入した密偵など、活躍する登場人物は多いが、それぞれのキャラが立っているのでゴチャゴチャした感じは一切ない。また、宿という限られた空間の中で、密偵は誰か、文書はどこに隠したのか、どうやって奪還するか、でいろんな人物が入り乱れて話が展開するわけだから、退屈もしない。このあたりはただ感心するばかりであった。


誰が味方で誰がスパイなのか、といったあたりは、もったいつげずに比較的あっさりとバラされる。にもかかわらず、スリリングな展開が続く、というあたりが演出力のなせるわざなんだろうか。最後はお決まりのアクションシーンだが、いつものような、「延々と続くワンバターンのアクションシーン」の雰囲気はない。子供の頃、仮面ライダーの闘いのシーンに出てきたようなシチュエーションではあるものの、意外や意外、宿の女将が弓矢で活躍したりして、なかなか楽しめる。音楽もよくあるカンフーものとは一線を画したもので、最後まで画面に釘付けにさせられながらも、時代物、武侠物として雰囲気を満喫できる傑作である。


日本もこのくらい楽しめる時代劇を作ってくれないかなぁ。