トレーニングの原理原則の一つに「特異性の原則」というのがあります。

トレーニング効果はトレーニングしたようにしか高まらないという原則で、目的に合ったトレーニングを行う事の重要性を表しています。

この辺りの事は前回紹介した本「競技力向上のためのウエイトトレーニングの考え方」に分かりやすく解説されています。

 詳しくは本を購入して読んで頂くか、著者のブログで関連記事を探して頂くとして……。

S&Cつれづれ


今回はトレーニング効果を競技動作に転移する際に、特異性の原則をどう考えるかというアプローチの違いについてNSCAジャパンの機関誌(2019年12月号)の関連記事から一部抜粋して紹介します。


(以下引用)


A.協調的過負荷
・運動学習の法則により定義される特異性を重視する。
・伝統的な過負荷は特異性を犠牲にしなければ成立しないと確信している。
・筋力は環境依存的であることに基づき、「一般的筋力」の概念を否定。
・「発揮能力」よりも「スキル」を重視し、バリエーションにより過負荷を実現する。

B.混合法
・特異性を最大化することが賢明である時、その方法を示す。特異的トレーニングと伝統的トレーニングを臨機応変に用いる。
・負荷の適用には、バリエーションと伝統的な意味の負荷の両方を用いる。
・どちらもアスリートのトレーニングステータス、必須要件、1年間の時期および試合までの時間に依存する。

C.伝統的過負荷(特異的)
・ニュートン力学的、および生理学的な過負荷の原理のために特異性は犠牲にする。
・より完全な外面的運動との一致に対する過負荷を犠牲にすることとは対照的に、目標の運動パターンの要素に機械的に過負荷をかけることを目指す。

D.伝統的過負荷(一般的)
・ニュートン力学的、および生理学的な過負荷の原理のために特異性は犠牲にする。これは環境条件の少ないトレーニング(一般的の向上)はアスリートの利益になるという仮定に基づいている。
・通常、動員レベルでのある程度の類似性(内的特異性)を満足させる。
・競技パフォーマンスの向上への転移には、その競技スキルと関連のある練習で十分であるとみなす。

少し分かりにくいかもしれませんが、A.はベンチプレスやスクワットといった一般的な筋トレでは競技動作を向上させる事が出来ないと考え、動作そのものに負荷を加えるやり方です。スポーツ漫画でよくある、手足に重りを着けて練習するような方法ですね。

D.は筋トレは筋トレとして集中して行った方が効率よく効果的なので無理に競技動作に見た目を似せる必要はなく、向上した能力を競技に活かすためにはその競技特有のスキル練習を別に行うという考え方です。例えば格闘家がパンチ力を向上させたい場合に、ダンベルを持ってシャドーボクシングをするのではなく、筋トレで筋力を向上させるとともにサンドバッグを叩いたりしてパンチの技術を磨くような感じでしょうか。

B.とC.は両者の組合せで、A.寄りがB.でD.寄りがC.といったところです。

A.を支持する人とD.を支持する人とでは話が平行線になりがちで、全く噛み合わない事もあります。

私の経験では医療系のトレーナーにA.やB.の人が多いように思いますが、冒頭で紹介した本はD.あるいはC.の立場から書かれています。

そのため人によってはこの本の内容に同意出来ない人もいるかもしれません。私は昔、同僚の柔道整復師(の卵)に対しこの本に書かれているのと同様の主張をして受け入れられなかった経験があります。

ちなみに昔のスポーツ漫画では圧倒的にA.が多かったですね。なにしろ見た目に説得力がありますから。