目白台サイドキック 女神の手は白い (角川文庫)/角川書店
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目白台サイドキック 魔女の吐息は紅い (角川文庫)/角川書店
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太田「あれもね、担当編集者さんの好みを全部集めました。女性の編集さんなんだけど、女性が好きそうなものを全部入れよう、と。タイプの違う、理系と文系の美形が出てきて、下僕になる刑事が出てきて、なんでもできる女性も出てくるけど、主人公たちに決して恋はさせない」
福田「すみません、その編集者さんは、ちょっと腐女子入ってるんじゃないでしょうか」
太田「うん、ルビー文庫の編集もやってたから、まるっと」
福田「それで、この人を面白がらせてやろう、みたいな」
太田「いまちょうど『目白台サイドキック』の連作を書き始めたんです。このまえ、短編を送ったんですけど、電話がかかってきて『よくぞ書いてくれました』って」
福田「それは!(笑) 楽しみです。男性同士の仲がいいところを見ていると、嬉しくなっちゃうほうでして。面白いなと思ったのが、太田さん、やおいですとかJUNEですとか、『トーマの心臓』などについても、理解がありますよね」
太田「まあ、阿南は『わからない』と言ってますよね。わからないから素直に。ただ周りの女性と話していて、受けか攻めかはけっこう一致する時が多い」
福田「あれは人によって好みもあって、逆になる場合もありますよね。ああいうBL的な世界、太田さん的にはOKですか」
太田「全然問題ない。フィクションですから。フィクションをどう楽しむかはその人の自由なので」
福田「恋愛関係を、わりとあっさりお書きになるところも、私は好きなんです。どろどろしないというか。阿南のシリーズも、最初の婚約者が亡くなってしまったのは、ずっと引きずっているんですけど。割合あっさりと恋愛を乗り越えていくというか。恋愛よりも自分のルールに重きをおいておられるような。そのへんは意識されてるんでしょうか」
太田「僕がそんなに恋愛に重きを置いてないからですね。世の中、恋愛に重きを置きすぎてるんと思ってるんです。なんでこんなに、惚れたはれただけを中心に考えなきゃいけないんだろう。たしかに恋愛も人生の要素のひとつですけど、そこまで重要じゃない」
福田「同感です。恋愛より仕事ですとか、自分がどう生きていくか、みたいなことを重く見ているので。むしろ、恋愛なくってもいいんじゃない、と」
太田「恋をしなきゃいけないとか、彼氏や彼女を作らなきゃいけないとか、すごく重苦しいじゃないですか。恋愛小説を書けと言われたら書くかもしれないけど、あまり楽しくないと思う。そこはかとなく好き、くらいでいいんじゃないの、と」
福田「そこはするっと流していいんじゃないの、とね。むしろ私は、恋愛でもコメディにしちゃうほうが楽しいです。好かれているのに気づかなくてドタバタになるとか」
太田「富士見のミステリー文庫でレンテンローズというシリーズを書いた時に、最初はライトノベルの世界でミステリーを書いてほしいと言われたので、それなら面白いんじゃないかと思ったけど、編集さんが変わった時に、もっと恋愛の部分をふくらませてほしいと言われて、そんなものは書きたくないと」
福田「そんなにみんな恋愛小説を読みたいんですかねえ」
太田「恋愛は商品にしやすい。歌でも小説でも、恋愛があると売りやすいんです」
福田「そして、最新刊の『死の天使はドミノを倒す』は、社会派ミステリだと思ったら、本格ミステリだった」
死の天使はドミノを倒す/文藝春秋
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太田「文春の編集さんから、親子の関係はもう書いてるので、次は兄弟の相克を書いてほしいと言われた。そこから始まったんです。兄弟で設定を考えてるうちに、片方を弁護士にして、片方を売れない作家にしてと」
福田「このお兄さんの小説家の、設定や描写がすごくリアルで、読んでいて怖くて怖くて(笑)」
太田「ツイッターで辻真先さんにも言われました。小説家の設定がグサグサくるって」
福田「同業者として、かなり突き刺さりました(笑)」
太田「彼のようなライトノベルの作家さんって、浮き沈みが激しくて、流行が変わると一気にダメになる。書きながら、明日は我が身と思ってました。僕よりも才能がある人が消えていくのをいっぱい見てきましたからね。あんなにいいものを書いていた人が書かなくなったとか、いつのまにか消えていたとか。作家生活は、昔はマラソンだと思っていたけど、今は遠泳だと思ってます。マラソンは疲れたらそこで休めるけど、遠泳は休んだら沈んでしまう」
福田「太田さんがそんなに辛いと思っているようには見えないんですけど。目白台サイドキックなんか、ものすごく楽しんで書かれているように見えるんですけど」
太田「あれも辛いですよ」
福田「あれはどのへんが辛いですか」
太田「キャラクターが喋っている間でも、その手はどこにあるのかとか、何を見ながらとか、全部見えないと書けなくて、そこで停まってしまう」
福田「太田さんは頭に映像を浮かべて書くタイプですか」
太田「そうです」
福田「なるほど~。これほどたくさんお書きになっている方から、作家生活は遠泳だなんて伺うとホッとしますね」
太田「浅田次郎さんなどが小説を書くのは楽しくてしかたがないと書かれているのを見ると、そんなことはない、苦しいと思う」
福田「小路幸也さんとの対談で、小路さんは小説を書くのが楽しいといい、太田さんは苦しいといい、おふたりがいろんな場面で対照的で本当におかしかったんですけど」
太田「そうなんですよね。この人、楽しいんだ、いいなあって。僕は、自分にとって大切なものは、みんな苦しいと思ってるんです。苦しいけど、大切なものだから頑張るんです。大切なものでなければやめちゃうんです」
*
福田「これからの刊行予定について、教えてください」
太田「ええっと、いっぱい仕事が詰まってるんですけど。『セクメト』(中央公論新社)の続編が出ることになってますし」
セクメト/中央公論新社
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福田「あれ続編があるんですか! それはいつ頃でしょう」
太田「今から書くんですよね。刊行予定は決まってないです。次の宇宙エレベーターの話も、来年の2月ごろかなというくらいで。連載は『レストア』(光文社文庫)シリーズの続きを掲載中で、『目白台サイドキック』シリーズもあと二本書いたら本になるはずです。ショートショートも担当さんに送っていて」
レストア: オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿 (光文社文庫)/光文社
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福田「来年、すごくたくさん本が出るんじゃないですか」
太田「どうかな、すでに僕の頭のなかでマネジメントできなくなっていて」
福田「ファンの皆さんにひとことお願いします」
太田「えー……見捨てないで」(真剣!)
福田「ええっ、そんな。見捨てたりしませんよ。みんな待ってますよ」
太田「もうとにかく、楽しんでもらえるものを書くつもりでいますし。僕の理想は、こういう(お店の食器を手に取り)ふだん使いの器のようなものを書くことなんです。芸術作品を書いているつもりは毛頭ありません。ふだん使っている皿とかお箸とか、使い心地がいいから使い続けているような。そういう小説を書いて、気持ちよく時間をつぶしてもらいたいんです」
福田「職人って感じがします」
太田「K島さんからも言われた。それ最高の誉め言葉です。小説家でなければ職人になりたかった。土をこねたりするのが好きで」
(第五回につづく)