子宮内膜症手術後の妊娠率 病変タイプでここまで違う | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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子宮内膜症は不妊と深く関係する疾患ですが、実際に手術後どのくらいの確率で出産に至るのか、また病変のタイプによって違いがあるのかについては、意外と明確なデータは多くありません。

今回紹介する論文は、フィンランドの全国レジストリを用いた大規模研究で、9,590人の未産婦を対象に、子宮内膜症の手術後に初回出産に至る割合を検討したものです。

研究の全体像

論文冒頭では対象集団が整理されています。子宮内膜症は腹膜型、卵巣型、深部型、そして混合型の4つに分類されています。腹膜型と卵巣型がそれぞれ約3割を占め、深部子宮内膜症は約7パーセントと比較的少数です。

Table 1では背景因子が示されており、卵巣型の患者は診断時年齢が最も高く、すでに年齢的な影響を受けやすい集団であることが分かります。


最も重要な結果は、全体の54.1パーセントの女性が手術後に初回出産に至っているという点です。これはTable 2に示されています。

つまり、子宮内膜症と診断されても、半数以上はその後に出産しているという現実があります。

さらに詳細を見ると、病変のタイプによって明確な差がありました。腹膜型が最も良好で62.4パーセント、卵巣型は45.7パーセントと最も低くなっています。深部子宮内膜症は58.3パーセントで、重症の印象とは異なり比較的良好な結果でした。


Table 2では、出産の発生率を人年あたりで計算した指標も示されています。腹膜型は9.44と最も高く、卵巣型は6.21と明らかに低い結果でした。

この差は統計学的にも有意であり、単なる偶然ではありません。つまり、子宮内膜症は一括りに語るべき疾患ではなく、タイプによって妊娠予後が異なるということです。

さらにFigure 1では、手術後から出産に至るまでの経過がカプランマイヤー曲線として示されています。左側のグラフでは腹膜型が最も早く出産に至っていることが視覚的に確認できます。


この研究で最も重要なポイントの一つが年齢です。
Figure 1の右側では年齢別の解析が示されています。35歳未満では出産率が明らかに高く、35歳を超えると急激に低下しています。これは子宮内膜症のタイプに関係なく一貫した結果です。
つまり、病変の種類以上に年齢が強く影響していることが分かります。

卵巣型の成績が低かった理由について、論文ではいくつかの要因が考察されています。
まず、診断時年齢が高いことです。さらに、卵巣チョコレート嚢胞は無症状のことも多く、診断が遅れやすいとされています。また、手術によって正常卵巣組織が失われることや、疾患自体による卵巣予備能低下も影響している可能性があります。
これらは臨床的にも実感と一致する部分です。

興味深い結果として、不妊と診断されていた女性の方が、むしろ出産率が高かったという点があります。
手術前に不妊と診断されていた女性の65.9パーセントが出産しており、発生率も全体より高い結果でした。この背景には、IVFなどの治療介入が積極的に行われたことが影響していると考えられます。

Figure 2では、不妊既往のある群と全体の比較が示されており、むしろ早期に出産に至る傾向が確認できます。

臨床的に重要なメッセージ
この研究から得られる最も重要なポイントは三つあります。
一つ目は、子宮内膜症と診断されても半数以上は出産に至るという事実です。
二つ目は、腹膜型は比較的予後が良く、卵巣型はやや不利であるという点です。
三つ目は、年齢と診断のタイミングが極めて重要であり、早期診断と早期介入が予後を左右するという点です。

まとめ
本論文は、子宮内膜症の術後妊娠について、これまでにない規模で明確なデータを示した重要な研究です。全体として妊娠の可能性は決して低くなく、特に腹膜型では良好な結果が期待できます。一方で、卵巣型や高年齢では予後が低下するため、早期診断と適切なタイミングでの治療介入が重要です。日常診療において、患者さんに現実的かつ前向きな説明を行ううえで、非常に参考になる論文だと思います。

Tuominen A, Saavalainen L, Saavalainen J, et al.
First birth rates after surgically verified subtypes of endometriosis—a national register study of 9,590 women from Finland.
Fertility and Sterility. 2026;125:660–670.