刺激方法を変えても、受精卵がなかなか胚盤胞に到達しない・グレードが上がらない | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

刺激方法を変えても、受精卵がなかなか胚盤胞に到達しない・グレードが上がらない場合、また別の刺激法を試すべきか、早々に初期胚移植にチャレンジしてみるべきでしょうか。現在40歳(AMH 2.3)で、1回目の採卵ではPPOS法で10個採卵→5個受精→4BC以上の胚盤胞に到達したものが2個(いずれも4BB。IVFで1個、顕微で1個。一度目の移植で着床したものの7wで稽留流産。2個目は着床せず。)
2回目の採卵では同じくPPOS法(薬量を増やした)で14個採卵→6個受精→胚盤胞に到達せず。
3回目の採卵では、刺激法を変えてアンタゴニスト法で10個採卵→8個受精→胚盤胞2個(いずれも4BC)
受精して3日目までは順調に育つのですが、5日目・6日目にかけて失速してしまいます。
※胚の後期生育に課題がある場合、精子側の問題もあると聞いて男性不妊外来にもかかったのですが、DFI検査は異常なし。培養士からも「後半も成長が止まっているわけではないので、精子の異常も考えにくい」と言われました。       

 

オンラインセミナーでの質問です。

 

ご質問ありがとうございます。刺激法を変えても胚盤胞に到達しない、またはグレードが上がらない場合、さらに刺激法を試すべきか、あるいは初期胚移植に切り替えるべきかという問いは、多くの研究で検討されています。

エビデンスに基づくと、胚の発育が3日目までは良好で5日目以降に失速する場合、主な原因は胚の染色体異常や遺伝子発現の乱れによる発育停止であり(McCoy RC et al., Genome Medicine 2023)、刺激法を変更しても胚盤胞化率の改善には限界があります。

一方で、Cornelisseら(BMJ 2024)のランダム化比較試験では、初期胚移植と胚盤胞移植の累積出生率に有意差はなく、体外での長期培養を避けて初期段階で移植することも合理的な戦略であると報告されています。

さらに、Glujovskyらのコクランレビュー(Cochrane Database Syst Rev 2016)でも、累積妊娠率では胚盤胞移植と初期胚移植に優劣はないことが示されています。

また、Cimadomoら(Frontiers in Endocrinology 2018)は、加齢による卵子および胚の能力低下が胚発育の失速に密接に関係していると述べており、年齢を重ねるほど胚盤胞化率が下がることを示しています。

また47回の説明会でも詳しく紹介しましたが培養環境が合わずに染色体が正常だとしても胚盤胞にならない胚が4割程度存在ます。

したがって、PPOS法やアンタゴニスト法など複数の刺激法をすでに試し、3日目までは発育しているにもかかわらず胚盤胞化しない場合は、刺激法を変えることよりも(変えることももちろん大切です)、初期胚移植を早めに行うことが現実的です。

初期胚を子宮という自然環境に戻すことで、体外培養で失われる胚のポテンシャルを活かせる可能性があるからです。

結論として、刺激法を繰り返し変更するよりも、初期胚移植を試みることで妊娠のチャンスを広げることが、エビデンスに基づいた合理的な次の一手と言えます。

参考文献:
Cornelisse S et al. BMJ 2024;386:e080133.
McCoy RC et al. Genome Medicine 2023;15:82.
Glujovsky D et al. Cochrane Database Syst Rev 2016;CD002118.pub5.
Cimadomo D et al. Frontiers in Endocrinology 2018;9:327.