海外在住の43歳、海外で治療中です。日本に住んでたら、貴院に通院したかったです。 | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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いつも有意義な内容のセミナーを開催いただきありがとうございます。過去分をほとんど視聴しました。
私は海外在住の43歳、海外で治療中です。日本に住んでたら、貴院に通院したかったです。

42歳のときに高量の投薬(300-450iu)で6回採卵するも、高刺激によるストレスもあるのか、胚盤胞まで到達するのがなかなか難しく苦戦していたため、低量(ミニIVF)&初期胚移植に切り替え2回採卵したところです。
最近では更年期の症状が現れはじめたのですが、D1で卵胞が見え、クロミフェンやレトロゾールの投薬を5-7日続けても卵胞が大きくなるどころか縮小します。そのため、一週間一切の投薬を停止し、また病院に行くと卵胞が復活してることが確認できるので、そこから投薬を再開します。
私のドクターはレトロゾールなどの錠剤ではなく、FSHの注射も合わせて摂取した方がいいということで100-150iuを摂取して、採卵に至ります。毎回、初期胚を2-3個とれています。
採卵できているのでいいとも思うのですが、100-150だったとしても高齢の私の卵胞には刺激が強いのではないかと心配もあります。
高齢女性のFSHの摂取量を検討する際のアドバイスを頂戴できましたら幸いです。 

 

オンラインセミナーでの質問です。

 

ご質問ありがとうございます。海外で治療を続けながらここまで努力を重ねてこられたこと、本当に大変だったと思います。

高齢女性におけるFSH投与量についての考え方は、多くの大規模研究やガイドラインで検討されています。Sunkaraらの研究(Human Reproduction2011;26:1768-1774)は、40万周期以上のIVFデータを解析し、採卵数はFSH投与量に比例して増える一方で、出生率は一定量を超えると上昇せず、むしろ高用量群で低下傾向にあることを報告しています。つまり「強い刺激で数は増えても質は改善しない」という明確なエビデンスが存在します。

また、Revelliらの総説(Human Reproduction Update 2011;17:350-363)でも、卵巣予備能が低い症例ではFSH受容体の感受性が低下しており、過剰な刺激では卵胞発育が急速になり細胞質成熟が追いつかず、結果的に卵子質を損なう可能性が指摘されています。

そのため、国際的な指針であるESHREやASRMのガイドラインでも、低AMHや高齢症例では初期投与量を150IU前後とし、卵巣反応を見ながら慎重に調整するステップアップ法が推奨されています。

これらの指針は特定の年に限らず定期的に更新されていますが、基本的な方針は一貫しています。

さらに、クロミフェンやレトロゾールといった経口薬を併用し内因性FSHを活かす刺激法は、卵巣の酸化ストレスを軽減し卵子環境を保つ上で有効と報告されています(Revelli 2011)。

したがって、43歳という年齢で100〜150IU程度のFSH投与により2〜3個の初期胚が得られている現在のプロトコールは、過剰刺激ではなく、卵巣の機能を保ちながら質を維持する上で理想的な範囲です。

刺激を強めるよりも、休薬期間を設けて卵巣の回復を促す現在の方法は理にかなっており、卵巣機能を守りながらチャンスを積み上げる正しい戦略といえます。

なお当院の刺激のこだわりはこちらにまとめてありますのでご覧ください。

引用文献:
Sunkara SK et al. Human Reproduction 2011;26:1768-1774.
Revelli A et al. Human Reproduction Update 2011;17:350-363.
ESHRE Guideline: Ovarian Stimulation for IVF/ICSI (European Society of Human Reproduction and Embryology).
ASRM Committee Opinion: Ovarian Stimulation for IVF (American Society for Reproductive Medicine).