早期レスキューICSIの適応条件とは?
~「第2極体排出率」と「年齢」がカギ~
体外受精において、受精障害が起こるケースは少なくありません。その対策として近年注目されているのが「早期レスキューICSI」です。この方法がどのようなケースで有効かについて、約2万人分の大規模なデータを用いた研究結果をご紹介します。
早期レスキューICSIとは?
通常の体外受精(IVF)では、卵子と精子を一緒に培養して自然に受精させますが、受精確認前(4〜6時間後)のタイミングで、第2極体(2nd PB)の排出がない卵子に対しICSIを行う方法を「早期レスキューICSI」と呼びます。
※第2極体とは:排卵後の卵子が精子と接触することで減数分裂を完了したサインであり、正常な受精過程の指標とされます。
この研究でわかったこと(2017〜2021年、19,808周期の解析)
研究では、以下の2群で結果が比較されました:
通常IVF群:第2極体が出ていなくても特に介入しない
早期レスキューICSI群:第2極体が4〜6時間後に出ていない卵子にICSIを実施
◎ ポイント①:第2極体排出率が50%未満の場合
この排出率とは、採卵後に正常に第2極体が出現している卵子の割合を意味します。
排出率が50%未満の場合、通常IVFでは受精率・累積出生率が低下していました。
一方、早期レスキューICSIを行った場合には、正常受精率と出生率が有意に高く(出生率:63.7% vs. 46.1%)、オッズ比1.609(95%CI: 1.276–2.030)と明らかに改善が認められました。
◎ ポイント②:母体年齢が38歳未満の場合にさらに効果的
排出率が50%未満のケースにおいて、38歳未満の女性では、レスキューICSI群の累積出生率が67.7% vs. 48.3%とさらに顕著な差となり、オッズ比1.732(95%CI: 1.361–2.202)という結果でした。


実際の臨床応用において
この結果は、第2極体排出率と年齢という2つの指標が、早期レスキューICSIの判断において極めて重要であることを示しています。
適応が推奨されるケース:採卵後4〜6時間で第2極体排出率が50%未満かつ、女性が38歳未満
このような場合には、早期レスキューICSIを積極的に検討することで、最終的な出産率が大きく改善する可能性があると言えます。
一方で、排出率が50%以上であれば、通常のIVFで問題なく進めることができ、ICSIの追加介入は必ずしも必要とは言えません。
最後に
体外受精では、「どの段階で、どの介入をすべきか」は、胚培養士・医師の経験と判断に加え、科学的根拠に基づく判断が重要です。レスキューICSIは万能ではありませんが、タイミングと条件を見極めれば、大きな成果を生む可能性があります。
Rescue intracytoplasmic sperm injection improved cumulative live birth rate for cycles with second polar body extrusion rate<50% in young women: generalized addictive model
Fertil Steril® Vol. 123, No. 3, March 2025
