12ミリの卵胞からの正常胚:卵胞のサイズと良い胚盤胞や正常胚ができる相関を調べている良い論文 | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

採卵の際のトリガーをかけるタイミングは患者としても気になると思います。

20ミリくらいは欲しいと思われると思いますし、あまり早いと未熟だし、遅いと排卵が怖い。

「前回は未熟だったので今回は遅く採卵したい」

「前回は排卵すみだったので今回は早く採卵したい」

医師も本当はいつが一番良いのか迷うケースもあります。

特に小さい卵胞でLHが上がったりP4が上がったりして排卵してしまうと戸惑う医師もとても多いと思います。

 

その様な迷いを解決してくれる良い論文がありましたので以下紹介します。

(今回のIVF学会で演者の塩谷先生も素晴らしい論文と出していました:過去にも一度ブログに書いています)

採卵時の卵胞のサイズと胚盤胞になる確率や正常胚になる確率を調べています。

 

良好な胚盤胞になる確率と卵胞のサイズを調べた結果です。

2.2% (9.5 mm以下) 

6.2% (10–12.5 mm) 

11.9% (13–15.5 mm)

14.5% (16–18.5 mm) 

18.9% (19–21.5 mm) 

17.5% (22–24.5 mm) 

15.9% (25–27.5 mm) 

16.0% (>28 mm)

つまり12.5mm以下で採卵しても良い胚盤胞はほぼ出来ないことがわかります。

その一方19–24.5 mmの卵胞だと良い胚盤胞になりやすいことがわかります。

 

この下の図は詳細を示しています。

 

卵胞のサイズと正常胚の関係を見ています。小さい卵胞からでも正常胚が多くできています。

この下の結果は採卵時の卵胞の直径と受精卵の染色体の関係をみています。

これはとても興味深い結果です。

みてわかる通り卵胞の大きさと異数性の割合はそこまで差はないです。

例えば10-2.5mmの卵胞からでも53%正常胚ができています。

13-15.5mmからの卵胞でも56%も正常胚ができています。

つまり大きい卵胞の方が正常胚が増えるということにはならないと言えます。

 

この論文から言えること

首席卵胞が一番良いです、この様な考えは必ずしも正しくないことを示しています。

The ploidy of the blastocysts that form appears to be unaffected by follicle size.

論文の結論に書かれている一文「胚の染色体と卵胞のサイズは影響されない」これが驚きでした。

12ミリの卵胞からの採卵でも生まれることを医師は知らないといけないということです。

 

大切なことは以下の文章かと思います。

Therefore, although follicle size is correlated with the subsequent development of good-quality blasto- cysts, there is still no evidence that follicle size affects the ploidy of blastocysts selected for biopsy.

つまり卵胞のサイズは良い胚盤胞ができるためにある程度大きい方が良いが、卵胞のサイズが小さいからと言って胚の染色体が影響されることは限らない。

 

小さい卵胞から採卵した胚でも十分生まれる可能性がある」ここはとても大切なことだと言えます。

いつも小さい時に排卵したり、何回採卵しても結果が出ない場合、12ミリとか13ミリの小さいサイズで採卵をすることを目指していくことこそがその方に合った治療法なのかもしれないということです。

「13ミリで排卵しましたが次回はどうしたら良いか?」

これらのことは臨床をしていると多くの先生が経験したことがあると思います。我々も度々症例検討会で提示されます。小さくて排卵するということはその時に胚はもう成長していると言う事であり採卵をすることが正解と言えるのだと思います。

そして何より決してあきらめてはいけないということが一番大切なことだと読んていて感じました。

Fertility and Sterility® Vol. 117, No. 6, June 2022

The effect of ovarian follicle size on oocyte and embryology outcomes