母体年齢は正常胚を移植する際の成功率に影響するか? メタ解析:来月号の最新論文から | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

PGTをして正常胚を移植すると6割から7割の妊娠率となります。ただ正常胚を移植しても母体の年齢と共にこの成功率は低下するのではというデータが過去にいくつか出ています。

この来月に掲載される最新のメタ解析の論文ではまさにその不安を調べている大変貴重な論文なので紹介します。

7個の良質な論文を解析しています。実に11335個の正常胚を移植して年齢に分けて成功率を検討しています。

 

母体年齢が35歳未満と35歳以上で以下3項目を検討しています。

A:継続妊娠率/出産率

B:着床率

C:流産率

 

結果は以下のようになりました。

A:35歳未満と35歳以上を比較すると出産率はオッズ比 1.29; 95% CI, 1.07–1.54 有意差あり

B:35歳未満と35歳以上を比較すると着床率はオッズ比  1.22; 95% CI, 1.12–1.32 有意差あり

C:35歳未満と35歳以上を比較すると流産率はオッズ比  0.84; 95% CI, 0.71–1.00  有意差なし

 

この下のグラフは母体年齢が<35 を 35–37, 38–40,  41–42と比較した場合の出産率を見ています。

年齢が上がると共に出産率が低下しているのがわかります。

論文の考察を読んでいくとどうしてこの様なことが起きるのか3つの仮説を提案しています。

一つ目は高齢になるとともに子宮内膜の状態が低下するとしています。内膜も老化すると指摘しています。遺伝子発現が変化すると過去の論文でも報告されています。

二つ目は異数性以外の胚の質を決めている部分が低下している。例えば母親が高齢に伴い父親も高齢になり精子由来の因子が胚の染色体以外の質を低下させているのではと。

三つ目は子宮筋腫や子宮腺筋症など子宮側の問題が年齢共に増えるのではと指摘しています。

その他流産を増やす要因として子宮の手術歴、甲状腺、糖尿病も年齢とともに増えることが関係していることも指摘されています。

 

この論文を考察している最新の論文があります。題名は「いくら正常胚を移植しても年齢はまだ重要となる」(Even with PGT-A, age still matters)。非常に辛い題名の論文です。

 

正常胚を移植しても年齢と共に成績は低下するという今回の結果は高齢の方からみると厳しい結果を突きつけられています。ただこの結果を「これは辛い結果だな、、」、ではなく、「どうしたら良いのか」といかに前向きに捉えるか、ここが大切になります。

論文でも考察している通り受けて側に問題が増えるのであればそこを治してから移植をすれば良いと言うことになります。

その最適な方法として腹腔鏡手術があります。オペでは直視下に一つ一つ病巣を治します。筋腫があれば摘出することも可能です。治せることを治してから移植する。体外受精の弱点である着床障害は腹腔鏡手術で補うことができます。

当院では正常胚を移植する前には腹腔鏡検査を提案することにしています。

 

高齢の方には体外受精と腹腔鏡手術を組み合わせることで最大の効力を発揮できるのだと思います。

 

Fertility and Sterility® Vol. -, No. -, - 2023(未掲載のため)

Received November 4, 2022; revised and accepted February 27, 2023

Does maternal age affect assisted reproduction technology success rates after euploid embryo transfer? A systematic review and meta-analysis