あめつち に われ ひとり ゐて たつ ごとき
この さびしさ を きみ は ほほゑむ
会津八一
天地に我一人いて立つごときこの淋しさを君は微笑む
今天地にわたし一人がいて、ここに立っているようなこの淋しさを、あなたは微笑みながら示していらっしゃる。
会津八一(1881~965)の奈良をひらがなで詠んだ独特の短歌だ。詞書には「夢殿の救世観音に」とある。法隆寺にあるアルカイックスマイルを浮かべた有名な仏像だ。作者は孤独で深い淋しさを感じていた。作者の前に立っている「救世観音」の不思議な微笑みに自分と同じ淋しさを感じたんだね。作者の淋しさと仏像の淋しさが一体となった作品だ。
うらみ わび たち あかしたる さをしか の もゆる
まなこ に あき のかぜ ふく
恨みわび立ち明かしたるさ牡鹿の燃ゆるまなこに秋の風吹く
恋の恨みに一夜立ち明かした雄鹿の、燃えるような瞳に、秋の風が吹いてゆく。
失恋した鹿の燃えさかる炎のような瞳のアップ、そこを秋の風が吹いていく。なんともシュールな映像だ。鹿、秋、燃える瞳、まさに古典と現代の融合。