どういうことかっていうと、今のフランスは、元からのフランス人っていうか、いわゆる白人のフランス人と、季節労働者としてフランスにいる人たち、そしてフランスの旧植民地、第三世界からの人たちの割合が、もうすぐ、ちょうど三分の一ずつになりそうなんだそうです。そのことを向こうの保守的な人たちは非常に恐れていて、危機感さえ持っている。もちろん、進歩的な人たちは、別にいいんじゃないかって言っているらしいですけど。

 このフランスの状態は、要するに日本で言う国際化なんかとは、まるでレベルが違うって言うんですね。何しろ保守的なフランス人は、もう追い詰められて、極限に近いところまでイッちゃってるんじゃないかっていうんですから。

 でも、まあ、今後は世界中がこの方向にいくんだと思います。ただ、それには、きっと途中に何段階もあって、職を新しい住民に奪われちゃうからどうだとか、人種差別の問題とか、いろいろ出てくると思うんです。が、どうも今のところ、そのあたりのことはフランスがいちばん先を行っているというか、スゴイところまで行っている。今まで近代国家というものは民族国家ということになっていたけど、もうそんなこと言ってられないよ、ってことなんですよね。

 『悪人正機 吉本隆明 聞き手 糸井重里

 

 この本が出版されたのが2001年、もう今から18年も前の本です。まだグローバル化という言葉が定着していないのか、国際化という言葉が使われています。今から考えると、吉本さんの言葉が見事に的中していますよね。ヨーロッパでは移民の問題が、EUの団結を揺るがし、ドイツやフランスでも移民排斥の極右政党が台頭してきています。移民の国家アメリカでも、保守派の白人がトランプを支持し、白人至上主義を唱え、移民の排斥と国内の分裂を煽っています。民族主義の台頭はグローバル化の反動だと考えられますが、経済が国家を超えて世界そのものを対象とする中で、グローバル化の流れは止まらないだろうと思います。都市国家ローマが地中海世界の覇権を握り、ローマは世界帝国になりました。そのとき古代世界はローマによるグローバル化が始まりました。西半分の古代世界から移民の労働者がローマ帝国に集まりました。それがまたローマ帝国の解体につながっていきました。

 近代国家は国民国家とか民族国家と呼ばれています。その先進国に世界中から労働力が集まり、それぞれの民族が集合して、コミュニティを作り上げていくと、当然、文化や伝統の違いで摩擦も起こるでしょう。しかし、この流れは吉本さんの言うように避けられないと思います。それがフランスのように外国人出身者が三分の一を占めるようになると民族国家は解体していくことになるかもしれません。そのときその国の伝統や特殊性はどう修正されていくのでしょうか、とても興味があります。

 しかし、日本人は古代から外国人労働者の受け入れには積極的だったんですよ。1500年以上前から、中国人や朝鮮人が渡来して、大和政権の政治顧問や高官として活躍していました。また日本のあちこちに集団で移住し、村落を形成し、機織りや須恵器などの高度な技術と仏教文化を伝えました。日本の古代国家は移民国家だったんですよ。

 今後、移民の問題は近代国家である民族国家を解体させていくかもしれませんね。この先が見たいですね。