今日は各新聞いずれも一面トップでこの話題を取り上げていました。
環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る12か国の閣僚会合は交渉の妥結を見送って閉幕したという記事。
・「TPP参加国全体の総GDP(国内総生産)のうち、日米だけで90%を超え
TPPとは事実上、日米自由貿易協定なのだ」
と言われていたにも関わらず、
(実際、これまでの報道も日米間の調整内容ばかりに焦点が当てられていた。
というか、国家が貿易量を管理する貿易は「国家間管理貿易」なのであって、「自由貿易」とは呼べないと思うのだが)
その日米が主導して会合をまとめようとしたら
参加国中最も初期のメンバーであったニュージーランドの抵抗によって妥結見送りになった、
というのは国際政治のなんともいえない皮肉といえます。
この話題を理解するためには、ここまでのTPPの歩みを振り返る必要があるでしょう。
・そもそもTPPとは2006年、東南アジアの小国シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、及び南米のチリが結んだ「P4」という自由貿易協定が前身でした。
これらの国はいずれは小国で、国内のパイが小さいことから、互いの国家間で「関税を例外なくゼロ」にした共同市場を作ろうとしました。
シンガポールは機械製品、ブルネイは石油と天然ガス、ニュージーランドは乳製品、チリは鉱産物の輸出国なので、互いに競合関係にならず協力し合えたのです。
そのココロは4か国による「経済同盟」でした。
ー世界史的には、イギリス製品の輸入に対抗するために(統一される前の)ドイツ諸国が結んだ「ドイツ関税同盟」をイメージするといいでしょう。ー
4か国は圏外国からの輸入品(主に中国から入ってくるの安い製品)に関税をかけ、4か国の商品には無関税で安く流通させることで、それぞれの国の産業を保護しようとしたのです。
この段階では確かに4国間で「自由貿易」を目指したものでした。
・そこに2010年、明らかに経済規模が違うアメリカが割り込んできた所から話は変節してきました。
アメリカは「巨大なアメリカ市場を無関税で君たちに開放しよう」
とか言ってこの4国を喜ばし
(これを受けてオーストラリア、ベトナム、マレーシア、コロンビアが参加。)
そしてアメリカは「みんなでやるんだからお前も来いよ」と日本への参加を促します。
目的は「例外なく関税をゼロ」と決めるTPPに日本を組み入れることで
日米構造協議や年次改革要望書でも実現しなかった「日本の米輸入完全自由化」「国民皆保険制度などの日本国内の非関税障壁」などを撤廃させるためです。
アメリカにしてみれば、全く経済規模の異なる国といくら自由貿易協定を結んでもメリットはありません。日本を入れなければ意味がありませんでした。
さて、菅直人政権が参加に前向きな態度を取ったことからカナダ、メキシコが加わりTPP参加表明国は12国となりました。
・当初の3倍に増えた上に各々が国益を主張し出したことで、戸惑ったのは当然のことながら
最初期のメンバーであった4国です。
「なんだこりゃ!?なんでこうなったんだ」てなものです。
ニュージーランドなんて自国の乳製品が保護されると思って始めた事なのに、日本やカナダなんかは乳製品はそんなにいらないとか言っているし、
各々の国家間では利害を調整するために何年も協議を続ける。
自分達が欲しいと思っていたアメリカの医療データはすぐにはくれないという。
「自由貿易」を始めるつもりだったのが、完全に「国家間管理貿易」になってしまっている。
しかも今回の交渉を無理やりにでも妥結させようというのは
来年に控えたアメリカ大統領選の日程を睨んだものだと言う。
アホか!?勘弁してくれ、やってられるかよこんなの!
と思うのは至極当然の結末でしょう。
日本の甘利大臣はニュージーランドを念頭に
「頭を冷やした方がいい国がある」
と報道に言ったらしいですが、
中々どうして、全てが大国のエゴで動くと考えるほど
世界は単純ではないということでしょう