「ヤギは気づいた」
夕暮れ時、ヤギ飼いが、ヤギの群れを放牧地から移動させていると群れの中に野生のヤギが混ざっていることに気づきました。
そこで彼は、野生のヤギたちを、自分のヤギの群れと一緒に、囲いの中に入れておくことにしました。
翌日、雪が激しく降ったため、ヤギ飼いは、ヤギたちをいつもの牧草地へ連れて行くことができずに、
やむなく、群れを囲いの中に留めおきました。
そして、彼は、自分のヤギには、飢え死にしない程度にしか餌を与えませんでしたが、
新参者たちには多くの餌を与えました。
と、いうのも、こうすれば、 彼らをうまく手なずけられるのではないかと考えたからです。
翌日、雪が解けはじめると、ヤギ飼は、ヤギたちを牧草地へと連れて行きました。
ところが、野生のヤギたちは、一目散に山の奥へと逃げて行きます。
彼は、逃げて行くヤギたちに向かって、
「吹雪の時にあんなに世話をしてやったのに逃げるとは、なんて恩知らずなんだ!」
と叫びました。
すると、一匹がクルリと振り向いて言いました。
「我々が用心するのは、そこなんですよ。
あなたは、長年慣れ親しんだヤギたちよりも、我々を大切にしたということは、もし、我々の後に、また別の者がやってきたら、
あなたは、同じように、新しい方を大切にするでしょうからね」
(相田公弘さん投稿より)