N.Y物語 The Another Story 45 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ


ニューヨークは『ゲイの街』と言う一面もある。

好むと好まざるに関わらず、至るところでゲイに出会す。


『ニューヨーク物語』の中で紹介したドナルドとのエピソードの他に、唸る程、その手のエピソードがある(苦笑)。


それらは、ドナルドとのエピソードの様に感動に繋がる物語ではないし、大概が不快である為(私に取って)、『ニューヨーク物語』では割愛した。


今日はそんなエピソードの中から幾つかを書き出してみよう。






「なぁ、キミ!」


・・・と言う男性の声が路上脇に止めてあるセダンタイプの車の運転席から聞こえた。

私がクリストファー・ストリートと言う通りの舗道を歩いていた時である。


私が、自分に掛けられたものとは思わずに足を止めずに通り過ぎ様とすると再び・・・


「なぁ!キミだよ!キミ!」


・・・と呼び止める声がした。


私が見ると、運転席から半身乗り出して、スーツ姿の白人男性が私を見ている。

「はい?何か?」

その男性は愛想の良い笑顔を浮かべて言った。


「これから一緒に食事でもどぉ?」


いわゆるナンパである。


このクリストファー・ストリートは、ゲイ・ストリート同様、ゲイの人達が多く出没する通りだった。


私が気に入っているショッピング街に向かう時に通る道であった。


「は?」

私は眉をひそめた。

『出たよ・・・ナンパ野郎が・・・』


「僕と食事しないかい、と言ったんだ。」

私は首を横に振ると歩き出した。


「おい、ちょっと待って・・・」


男性は車から降りると小走りに私を追い掛けて来る。


ニューヨークは当時、恐い街であった。


彼は私の前に回り込み、立ちはだかった。


「俺、急いでるんで。」

私は男性の脇を抜けて再び歩き出す。


「急ぐなら、車で送るよ。」


「結構です!」


「食事がダメならコーヒーだけでも・・・」


「他を当たって下さい。」


焦って、声を荒げてはならない。相手がどんな性格かが判らない。表面的には穏やかに見えても、内面までは判らないし、下手な言動をすればキレるかも知れないからだ。


男性が再び私の前に回り込んだ。


『ゲーッ!コイツしつこいぞ!どーしよ!』


目の前の男は、私よりも上背が15㎝程高く、身体も厳つい。グレーがかったブロンドの髪は年齢による物と思われたが、定かではない。体格から、何かあれば敵わないだろうと思われた。


「すいません。ホントに急いでるんで・・・」


私が男性と目を合わさずに言うと、彼は信じられない一言を投げて来た。


「いくら?」


私の頭に一気に血が昇る。


「は!?」

私は男の顔を見た。明らかにそれまでの表情と違っていた。私を見る目がギラついている。

男は一段低い声で言った。


「いくら払えば俺と寝るのかと聞いてるんだ。」

私は男を睨み返す。


「そんな商売してません!」


そして私は駆け出した。必死に走る。


男は途中まで追い掛けて来たが、口汚く私を罵ると追うのを諦めた。


『ニューヨークは好きだけど、こういうのだけがイヤだよ、全く!!』


こうした類いの出来事は一度や二度ではなかった。その度に怖い思いをしたのである。

巷で言う所の『壁ドン』を路上で体験した事もある(苦笑)。


ゲイの人達全てが、こうした失礼な輩ばかりではない。愛すべき人も沢山居るし、大好きな友達も沢山居た。しかし、こうした類いの輩もいる事はいる。


そして彼等は至る所で、こうした直接的かつ積極的な行動に出るのだった。


人種や性格によっては非常に強引である。






ある日、シャザームの仕事でフロリダに飛んだ私。

その時のシフトは大所帯であった。ダンサーが大勢であると言う事は、それだけパーティーが豪勢である事を意味している。

マイアミビーチに豪華な別荘を持つ大金持ちのパーティーで、マイアミでも一二を争う高級ホテルで開かれると言う事であった。


更にはパーティー前日にダンサー、スタッフ全員が前乗り。丸一日のフリータイムが与えられた。私達ダンサーは皆、大はしゃぎである。


豪華なホテルのプライベートビーチで寛ぎ、美味い料理に舌鼓を打ち、私達は終始賑やかに過ごしたのである。

※その後、我々はクラブに出向く。その時の様子は『ニューヨーク物語44』に。




「こんなホテルに二泊も出来てお金貰えるなんて。ジョディもスコットも来れば良かったのになぁ~。」


「確かに、こんな美味しい仕事はシャザームじゃ滅多に無いよな。」


クラブからホテルに帰り、各々部屋に戻る。部屋は二人一部屋だったが、部屋も広く、ベッドは余裕で三人は寝られる大きさだった。


私の相部屋の相手はクリスと言う白人のダンサーだったが、彼はステップスではクラスを取っていなかったので、シャザームの仕事現場でしか顔を合わせる事が無かった。


クリスは他のシャザーム仲間の中では『変わり者』と呼ばれていたが、私にはその理由がよく判らなかった。

確かに何と言うか、他の連中と一線引いている感じがあり、口数も少なく、単独行動が多かった。シャザームの仕事に対しても、何処か冷めた感じで、淡々とこなしている風ではあったが、しかしそれだけでは『変わり者』呼ばわりされる理由にはならない。


みんなが口を揃えて、クリスの事を『変わり者』と呼ぶには何か他に理由があるのだろう。

あまり人の悪口を言わないジョディでさえもが『私・・・クリスはあまり好きじゃないわ』と洩らすくらいだから、私の知り得ない『何か』が、彼にはあるのだろう。


しかし、私はクリスとの間に何の問題がある訳でも無かったので、もしかしたら、私がクリスの相部屋の相手に選ばれたのは、みんながクリスを煙たがっている事を承知していたマネージャーの配慮だったのかも知れない。


「そうだよね!滅多に無いよね!」

私はそう言うと、ビーチに向いている大きな窓から夜の海を眺めた。


「波の音って落ち着くなぁ・・・」


「俺、先にシャワー浴びるけど、いいかい?」


クリスが背後でそう言った。

私は海を見たまま『いいよ』と答えた。



初めてのフロリダ。滅多に無い大きな仕事。そうそう味わえないリッチな気分。

ニューヨークに来てからずっと、金の苦労ばかりして来た私は、今自分が置かれている状況が信じられない気持ちだった。


『フロリダかぁ・・・こんな所に来られるなんて思わなかったなぁ・・・』


私は窓の外のテラスに出ると、全身に潮風を浴びる。


遠い日本から、たった一人やって来たニューヨーク。そんな自分が今、マイアミの夜の海を眺めている。


私は何やらセンチメンタルな気分に陥ってしまっていた。



そして・・・

私のこのセンチメンタルな気分をクリスがぶち壊すまで、あと数分しかないなどとは、夢にも思っていなかった。




2012年6/1の記事『ニューヨーク物語70』←ダニエルの言葉に迷いの霧が晴れた若きKAZUMI-BOY。足取りも軽くステップスに向かうが・・・