N.Y物語 The Another Story 43 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ



すっかり酒に酔った2人の激論は、口を挟む隙もなく、私は2人に左右から身体を揺さぶられ続け、ガクガクする頭で考える。


『俺の踊りの魅力・・・この2人には解るって事・・・?』


2人の英語には、フランス語とイタリア語が混ざり始め、既に何を言っているのか解らない。


「そろそろ近所から苦情が来るわよ。」

アレックスのルームメイトが言った。

私は2人の手を振りほどく。


「俺の踊りの魅力って何さ?」


酔いが醒めてしまった私は真顔で2人を見比べる。


「シャープだわ。」

「セクシーだ。」

「なめらか。」

「情熱的。」

「言葉が見える時があるわ。」

「空気が変わる!」


2人は左右から私に顔を近づけ、唾を飛ばしながら交互に声を張る。

そして少し間があいた後、2人の声が偶然揃う。


「思わず見ちゃう!」


私達はお互いに顔を見合わせると笑った。


「ありがとう2人共。嬉しいよ。」



そう言いながら、しかし私は釈然としなかった。


2人が嘘を言っているとは思わないが、果たして自分は、本当にこの2人が言う様な踊りを踊っているのだろうか?


自覚がない。


2人が言う私の踊り、それが私の個性なのだろうか?

この所、ずっと探し続けて来た答えは、2人の言っている事・・・それなのか?

ジョディは言った。

『貴方が踊り出すとみんな見るわ。』


自分の事ほど判らないものである。

ジョディにそうは言われたものの、この1年半で何処まで上達したのか、上手いダンサー達の中でどう踊ればよいのか、皆目見当もつかない。

そんな日々が続いている、そんなタイミングでの、この2人からのメッセージであった。





「アンタね?その程度の容姿で図々しいわよ!」

「なんだと!?僕は充分に美しいぞ!!」

「美しい!?アンタ今、美しいって言った!?」

「はい、言いましたけど!?」


私が思案にくれている間に、アレックスとジャッキーが、また揉め始めている。


「美しいって言葉の意味解ってないのね、可哀想に!」

「アレックスこそ解ってないんじゃないか!?」

「アタシはモデルもやってんのよ!解ってるに決まってるじゃない!!」

「フランスじゃあ、その程度じゃモデルになんかなれないぜ!」

「なんですって!!」


2人が取っ組み合いを始めた。

私はアレックスのルームメイトに尋ねた。

「何?この2人、今度は何を言い争ってんの?」

ルームメイトは呆れた顔で言った。


「どっちがKAZUMI-BOYに相応しい恋人か?って事みたいよ。」

「はぁ!?」


私の悩みを他所に、2人は取っ組み合いを続ける。

まるで仔犬がじゃれあう様に。




アレックスとジャッキー。

この人間臭い愛すべき2人は、この後も、私が帰国するまでずっと・・・



ほぼ毎日・・・

先を争う様に・・・





私に愛の告白を繰り返す事になる・・・。


「KAZUMI-BOY!!アタシの何処が気に入らないって言うのよ!こんなイイ女、周りの何処見たっていないじゃない!!」


「おぉ!!KAZUMI-BOY!!どうしたらキミは僕のモノになってくれるんだい?僕はキミをこんなにも愛してるってのに!!」


この2人をSっ気タップリに虐げる私・・・。




この茶番を、ドナルドがハラハラしながら見守っていた事など、知る由もない私であった。





2012年5/29の記事『ニューヨーク物語68』←セントラルパークで一人大反省会の後、若きKAZUMI-BOYはダニエルのアパートを目指す。自分の未熟さと愚かさにやっとこさ気づいた。穴があったら入りたい(笑)!!