ニューヨーク物語 124 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ




カズシは誰とシェアする事もなく、アップタウンに自分個人でアパートを借りていた。


1(ワン)リビング、1(ワン)ベッドルーム、そしてキッチンとバスルーム。



彼の行動力と知識は半端ではない。


何もかもを一人でチャキチャキとこなしてしまう人であった。
ニューヨークでアパートを探して一人暮らしを始める事など、カズシにとってはお茶の子さいさいである。


歳は一つしか違わないのに、私とカズシの『出来』は子供と大人ほども違った。


私はよく…


『カズミ!そんな事も知らないのぉ~!?』


と、小言を賜ったり、呆れられたりしていたものである。


『なぁ~んか心配だなぁ~。カズミ一人で大丈夫?』


と言う台詞は、私達の会話の中で、カズシが一番多く使っていたフレーズである。


初めて私達がニューヨークで知り合った時、カズシは旅の途中であった。


しかし、途中で立ち寄ったニューヨークをすっかり気に入った彼は、一度帰国すると、すぐに留学の準備を済ませ、あっという間にニューヨークに戻って来たのだった。



私が帰国する事をカズシに告げた時、カズシは言った。


「ええー!せっかくニューヨークに戻って来たのに、カズミ帰っちゃうのー!?」


私は言った。


「戻って来るよ、どんな形でも。必ず。」


「ホント?じゃあ俺が居る間に戻って来なよ!」


「あはは…死ぬ気で金貯めなきゃ!」


「カズミなら出来るよ!」


明るいカズシ…。


彼に『出来るよ!』と言われると、本当に出来そうな気がした。



帰国を控えたこの時期、私は、細部不明瞭ながらも『ニューヨークに戻って来よう!』と言う考えを固めていた。


『この先…どんな人生を歩むとしても、自分が息づいて行く場所は此処、ニューヨークではないのか?』


そんな風に思えたのである。


カズシの様に貯えの無い私は、すぐには戻って来られないだろうが、何ヵ月、何年かかろうが、何らかの形で此処に戻って来ようと思っていた。


その為の帰国だ!そう自分に言い聞かせていた。


そう言い聞かせないと…


…辛かったのだ。





カズシと私は、二人で相談し、パーティーの日取りを決めた。


「カズミのバイバイパーティーだからなぁ…。み~んな来たがるだろうなぁ…。」


カズシがボーッと空を仰いだ。


「ウチに入り切んないんじゃないかな…。カズミんトコのリビングみたいに広くないから…。」


「そんなに大勢呼ばないでいいよ!本当にこじんまりでいい!」


「でもさぁ…。誰それは呼ばれたのに、あたしは呼ばれてない!とか…色々あるじゃん!」


カズシは頭を悩ませる。


「日本人だけでいいよ。」


私がそう言うと、カズシが驚く。


「ええー!?カズミ、日本人よりコッチの連中の方が知り合い多いじゃん!」


「だから…みんなにバイバイされるの…ヤなんだよ…。」


カズシが黙る。


「だから…パーティーなんて、大それた集まりじゃなくていい…。」


「ジョディーは?」


私はうつ向くとポツリと溢した。


「来ないよ…きっと…。」


カズシが大きな溜め息をついた。




この頃、私は度々頭を悩ませていた。


帰国するその日、私はジョディーに何と言葉を掛けようか…?


ジョディーは言った。


『サヨナラなんて言わない』


と…。


では…


私はジョディーに何と言えば良いだろう…?



考えても、考えても、何も思い浮かばない…。



そして、何も思い浮かばないまま、カズシのアパートに集まる日が来てしまったのである。



カズシは私の要望通り、その当時ニューヨークに滞在中の、私と親しい日本人だけをほんの数人集めてくれた。


例外は、アンドレアとシェリー。


アンドレアは当時、カズシが一番仲良くしていた女性で、やはりステップスでスカラーをしていた。


シェリーは、私におにぎりを作ってくれた、あのシェリーである



カズシは自ら腕を奮った料理を次々に出してくれる。


酒を振る舞ってくれる。


私は思う存分、カズシの厚意に甘えた。


はしゃいだ。


…と…


みんながある程度、いい気持ちになっていた時、アパートのインターフォンが鳴る。


カズシが部屋の受話器を取り、一言二言話した後、アパートの表玄関のドアを開ける解除ボタンを押す。


数分後、今度は玄関のチャイムが鳴った。


カズシはキッチンで鍋を振っている。


「カズミ、出てぇ!」


友人とふざけあっていた私は、立ち上がり、玄関に向かった。


ロックを外し、ドアを開ける…


「!」


ドアの外に立っていた新しい客…


それはジョディーだった。


「ジョディー…」


「ハイ。カズシの招待だもの…。断れないわ。」


「あ…ありがと…。」


「でも長居はしないわ。ちょっとだけね。」


「うん。」


私はジョディーをリビングに連れて入った。


キッチンから顔だけ出して、カズシがニヤリと笑う。


『カズシ…ありがとう…。』


果たしてカズシは、どうやってジョディーを口説いたのか?


それは分からない。


しかし、こうしてジョディーは来てくれた。


私は何か…


胸につかえていた物が、スッと溶けて流れた様な気持ちであった。



そして、夜は更けて行く。


私達は夜通し騒いだ。



翌朝などやって来ない!と思い込む様に…。


騒いでさえ居れば、時計の針は進まないとでも言わんばかりに…。



何故なら…


朝が来て、日が変われば…


私はニューヨークから居なくなる。



このパーティーは、私の帰国前夜に行われていたのだった…。



明日が来れば、私は日本に帰る。



ニューヨークの全てに別れを告げる時がやって来る…。