さて、私はこの頃になると、よくダニエルと喧嘩をしていた。
大概はダニエルに皆の前でからかわれたり、上手く踊れない事をケチョンケチョンに罵られたり…と言った類いの事であった。
喧嘩をすると私は…
ダニエルのクラスから逃亡し、ステップス以外のスタジオで日頃全く受講していない先生のクラスを受けに行っていた。
飛び出した直後から数日は
「もう絶対にダニエルのクラスなんか受けるもんか!二度と受けない!」
と、鼻息も荒く心に誓い、ステップス以外のスタジオを転々と渡り歩くのである。
違う先生のクラスでは、発見もあったが、どんなクラスを受けても私は欲求不満に陥った。
刺激も充実感も無く、そして何より心がときめかなかった。
一週間と経たぬうちに、気持ちが萎え、イライラが募る。
「全く…毎度の事ながら、呆れるわ。意地を張ってないでダニエルのクラスに戻ればいいでしょ?」
私がイライラとウチの中を彷徨く姿に、堪りかねてジョディーが言う。
「嫌だね!あんな奴のクラスなんか受けるもんか!」
「その『あんな奴』を追い掛けて、日本からわざわざ来たクセに(笑)」
「五月蝿いな!放っといてよ!」
「オーケー、オーケー!知らないわ。あたしはダニエルのクラスを受けに行って来ますから!」
「…………………………。」
ジョディーが出掛けた後、物に八つ当たりする私であった(笑)。
ニューヨークに来たばかりの頃は、ダニエルに何か言われる度にメソメソとセントラルパークに泣きに行っていた私だったが、一年も過ぎるとこの様に、可愛げのない行動を取る様になってしまった訳である。
しかし、ダニエルのクラス恋しさの禁断症状は物凄く、最終的にはダニエルのクラスに戻ってしまうのである。
「どうせ結果が見えてるんだから、喧嘩なんかしなきゃいいでしょ?」
とジョディーに笑われて終わるのであった。
一週間と持たない私の反抗期(笑)。
クラスに戻る事のバツの悪さはこの上ない。
「今回は何処に雲隠れしてたんだ?え?」
ダニエルがニヤニヤと意地の悪い薄笑いを浮かべる。
「別に、何処だろうと構わないだろ!」
「何処に行ってたか言えよ。」
「………………。」
こういう時のダニエルは、私が答えるまで一歩も引かない。
「〇〇のクラスを受けに行ってた…。」
「で?どうだった?楽しかったか?」
全く嫌な奴である(笑)。
「別に…。」
「どんな振りだった?踊ってみろよ。」
「ええ!?嫌だよ!」
「いいから踊ってみろよ。」
私は渋々、ダニエルの前で好きでもない振りを踊らされるのである。
クラス逃亡の罰ゲームである(笑)。
当時の私もダニエルも、若く、気性も激しい者同士。
教える者、教わる者の立場も関係なく、こうした事をしょっちゅう繰り返していた。
勿論、最終的には私が折れる。
唯一、ダニエルが私に謝った事もあったが、それはまた別の機会にお話する事になる。
今では、滅多に会わないダニエルだが、それでも久方ぶりに会えば、あっという間に時間が埋まるのは、こうした時代があればこそ。
振り返れば、懐かしく、あれはあれで有意義だった…と言う事だろうか(笑)。
そうして、ニューヨーク生活も一年半を過ぎた頃、私はニューヨークにやって来た唯一最大の目的と対峙する事になるのである…。