さて、後期編は新しく出来た友人の話から始めようと思う。
友人の名はカズシ。
各国を旅行中にニューヨークに立ち寄った日本人である。
彼は私より一つ歳上で、後に私の親友となる。
出会いはステップスであった。
私よりも先にジョディーが彼と知り合い、私はある日ジョディーから彼を紹介されたのである。
「あなた達、絶対に仲良くなると思うわ!」
ジョディーは私とカズシが初対面であるにも関わらず、自信ありげに断言した。
そして、ジョディーは正しかったのである。
カズシは男二人兄弟の長男であったが、実家の自動車修理工場を継ぐのが嫌で家を飛び出し、住み込みでホテルのバーテンダーをしたり、金が貯まるとフラりと旅に出たりと『自分探し』の真っ最中だった。
彼はありとあらゆる事柄に好奇心を持ち、興味のある事にはことごとく着手した。
そんな興味の対象の一つにタップダンスがあった。
今回の自分探しの旅の途中でニューヨークに立ち寄ったのは、タップダンスを満喫する為であった。
カズシは行動力と瞬発力の塊。
『こうだ!』と思えば、即座に行動に移した。
しかしその反面、非常に思慮深く用意周到な部分も持ち合わせており、決して無謀な事はしない。
ジョディーはホームパーティーが大好きで、ウチでは度々、何かにつけてホームパーティーが催された。
ジョディーは非常にカズシを気に入り、彼の歓迎パーティーを開いた。
「カズミはいいなぁ、夢中になれる事があって。こうやって目的を持ってニューヨークで頑張ってる。」
パーティーの最中、カズシが言った。
「そうかなぁ…俺はカズシみたいにアチコチ旅してみたいよ!」
私達はほぼ真反対の性格をしていた。
カズシがあくまで冷静なら、私は激昂するタイプ。
私が大雑把なら、カズシは几帳面。
感情の起伏が穏やかなカズシと、感情の起伏が激しい私…と言う具合であった。
日本に帰国後、カズシは唯一、私の踊りに対して真っ向から物を言う人物になる。
私が出演する舞台を観に来ては、厳しい意見が飛んで来た。
「65点!」
「ええー!?なんでさ!?結構頑張ったのに!」
「なんか…カズミの踊り、ムラッ気があり過ぎ!途中、テンション落ちたろ?」
「バレた(笑)?」
「バレバレ!」
と言った感じであり、私は彼にダメ出しされる事が嬉しかった。
知り合ってから、ほんの数週間でカズシはニューヨークから次の国へと旅立った。
「一回帰国して、今度はもっと長く来るよ!カズミがニューヨークに居る間に!」
「うん!待ってる!」
「良かったらコレ、貰ってくれないか?」
短期間の滞在だと言うのに、カズシは高そうな自転車を買い、日本に持って帰れないからと私に惜し気も無く譲り渡した。
物語中盤にチラリと書いた、ジョディーを心配させた例のあの自転車である。
「こんな高そうな自転車、本当にいいの?」
「うん!カズミ乗ってよ!」
こうして、カズシの初めてのニューヨークは終了したが、数ヵ月後、彼は約束通りニューヨークに戻って来た。
私達はニューヨークでも日本でも、四六時中一緒に居る様な事はなく、日頃は各々の生活に必死だった。
そして、たまに会っては延々と色んな事を話し合うのである。
大切な出会いの一つであった。