ウチでサンを飼うにあたって、懸念している事があった。
それは先住者達との相性である。
私としては、ニオは既に二十歳を越えた婆さんだし、息子のケンポーも娘のナップも十三歳を迎えた老猫であるから、新しくサンがやって来ても大丈夫だろう・・・と、タカをくくっていた。
しかし、私のこの考えは甘かった・・・・。
幾つになろうが、ババアになろうがジジイになろうが、猫のテリトリー意識には変わりがなかった。
獣医の所から自宅にサンを連れ帰った私は、胸に抱いたサンを彼等に見せた。
「今日からウチに来たサンだぞ。妹分として仲良くしてやってな。」
彼等は暫くの間、じっとサンを見つめていた。
私が、もっとサンの顔を見易い様に・・・と床に座り、膝の上にサンを乗せた・・・その途端!!!
三匹が一斉に
「シャー!!!!」
と、大きな口を開けて獣声を上げ、サンを睨みつけたのである。
ビビったサンは、私の膝に爪を立ててしがみ付いた。
考えてみれば・・・・
こいつら三匹は親子であるにも関わらず、例えばケンポーが病気で数日の間入院し、久方ぶりに帰宅をして来た時にも、ニオとナップは
「シャー!!!!!」
と、物凄い形相で吠えたてた。
それが、今回はまるで新参者である。
「うーん・・・考えが甘かったか・・・。」
サンは決して私の膝から降りようとはせず、そのまま身体をすくませ、小さくなって震えるばかり・・・。
一時間以上も、私はその場から動けなかった。
これでは心配で仕事にも出掛けられない・・・。
まだ生まれて間もないサンは、他の三匹に比べれば圧倒的に小さく非力である。
私は出掛ける際には、私の上着やらGパンやらでサンをくるみ、ベッドの上に乗せて、ダメ元覚悟の上で先住者達に言い聞かせた。
「いいか?絶対にサンを苛めるなよ!」
仕事中も気が気じゃない・・・。
私は仕事を終えると、すっ飛ぶように帰宅した。
帰宅するとサンはいつも、何処かにその身を隠しており、私が呼んでもなかなか出て来ない。
ある時はCDラックと壁の隙間に。
ある時には台所のゴミ箱の後ろに。
いつも、いつも、捜索に時間のかかる場所に息を殺して隠れていた。
私はサンを探し出すと抱き上げ、まずは彼女の身体に傷が無いか?を調べた。
まぁ・・・サンを傷つける程の事はすまい・・・とは思っていても、心配でたまらなかったのである。
サンはいつも、私に見つけて貰うのをひたすら待っているようであった。
私が見つけ出すまでは、鳴き声一つ、物音一つ立てない。
そして夜は、私にしがみつくようにして眠った。
こんな状態が、一ヶ月程も続いたろうか?
暫く経つと、三匹はサンの存在に慣れた様で、唸り声を上げなくなった。
しかし・・・
サンの方はすっかり三匹を警戒し、敵視する様になってしまったのである。
この状態は、何かに付けて今でも見受けられる。
特に、ナップに対する敵対心は半端ではない。
恐らく、一番怖い目に会わせられたのがナップだったのだろう。
成長し、力関係がすっかり逆転した今現在も、事ある毎にサンはナップを目の敵に追い掛け回し、ナップの毛が毟れる程に噛みついている。
こうして、母の愛情も知らず、乳の味も知らずに、我が家に引き取られたサンを私は溺愛した。
ニオがケンポーとナップを愛しみながら、絶えず目を配り、大切に育てる様を私はこの目で見て来た。
母猫の愛情が如何に深く、強い物であるかを知っている。
そんな母猫からの愛情を全く知らないサンが、不憫でならなかったのである。
そんなサンにとっては、私と言う存在は親代わりになれるだろうか?
「いや!絶対になってやろう!」
そう心に決めた私であった。