ニューヨーク物語 39 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ

こうして私は、ニューヨークで仕事を得た。


仕事に慣れるまでの間、私はジョディと同じ現場に入れて貰う事になった。


化粧道具も持っていないので、ジョディに借りた。



今思い返しても、スカラーにせよシャザームにせよ、私にとっては他に替え難い貴重な経験であった。


遠い異国の地で、仕送りもなく自活すると言う事はなかなかシンドイものである。


しかし、当時の私は『ダニエルのショーに出る!』と言う目標一つで、生きていた。


『石にカジリツイテも帰らない!』


この言葉は、当時の私が毎日呪文の様に唱えていた言葉であるが、私はこの言葉から随分とエネルギーを貰ったものである。




さて…


正式にシャザームの登録ダンサーになった私は、幾つかの決まったルーティーン(振付)を覚えねばならなかった。


基本的にパーティー会場では、客を踊らせる事がメインなので、フリーダンスが殆どだが、出し物によっては決められた振付を踊る事もある。


大きなパーティーなどで踊る、ショータイム用の振付である。


このショータイム用の出し物は3パターンくらいあったが、どれもこれも度肝を抜く程に簡単な振付であった。


※シャザームダンサーの中には俳優やシンガーも居た為、あまり本格的な振付では、彼等が覚えられないからだろう。



リハーサルは、マンハッタンのミッドタウンにある貸しスタジオで行われた。


私の様な新参者や、久しくシャザームの仕事に参加していなかった者などが15~6人程集まり、振付を受けた。


仕事場でダンスキャプテンを務めるダンサー達が、振付指導にあたる。
ジョディもその中の一人であった。


リハーサルには、代表マネージャーも来ていた。




『あら、ケヴィン久しぶりね!』


ジョディが声を掛けた相手を見ると、見事なブロンドに人形の様な青い眼をした青年が居た。


『地方をミュージカルで廻ってたんだよ、元気?ジョディ!』


『ええ!元気よ!そうだわ、紹介するわね。あたしのルームメイトで、今度新しくメンバーになったKAZUMIよ!』


ジョディは、そう言って私の方を振り向いた。


『よろしく。KAZUMIです。』


ケヴィンは、私を値踏みする様に見つめると、一間おいて


『ケヴィンだよ!よろしく!』


と握手を求めて来た。


彼は、何と言うか…非常に空々しい、大袈裟な笑顔であった。


私は握手を交わしながらも、意味不明な違和感を彼に感じた。


そして、握手の手を離した次の瞬間、彼は言った。


『シャザームは余程、人手が足りないのかな(笑)。』

そして、彼は直ぐ様、他のメンバーに愛想を振り撒きに行ってしまった。


ジョディが私に耳打ちをした。


『気にする事ないわ。でも、ケヴィンには気をつけて。ちょっと性格に難ありよ。』


言われるまでもない。
今の挨拶で、よく分かった。


『彼はね、いつでも自分中心じゃないと気が済まないのよ。』



なるほど…


ジョディの言った『自分中心ぶり』は、リハーサルが始まると、すぐに分かった。


たかがリハーサルと言えど、居場所も居方も言動も全て、彼中心に事を運ぼうとしている。


いけ好かない空気は、あっという間にスタジオに広がった。



私は休憩時間に、そっとジョディに尋ねた。


『ケヴィンの態度…あんなに横柄で我が儘なのに、なんで誰も何も言わないの?』


マネージャーすら、黙認している様に見受けられた。

『みんな彼を嫌いだし、それに…。』


珍しくジョディが言葉を詰まらせる。


『それに?』


私は続きを促した。


『それに…ケヴィンはスティーヴに気に入られてるのよ。』


私は呆気にとられた。


ブロンドに青い瞳、年より若く見える少年の様な顔立ち、踊りも上手く、客ウケがいい。


と言うのが理由だと、ジョディは言った。


有色人種よりも白人を好み、同じ白人ならば、ブロンドと青い瞳を好む。


それが、スティーヴと言うわけである。


私には理解出来なかった。

しかし当時は、特定のオーディション以外では、同じ白人ならばブロンドの方がウケがいい、と言うのは周知の事だった様で、ジョディも髪を、いつもブロンドに染めていたのである(本来の彼女の髪はブルネットであるが、私は一度も彼女の地色を見た事がない)。



私は改めて、自分がスティーヴに気に入られた事は、異例中の異例であった事に驚いた。


しかし、この事…つまり、私がスティーヴに気に入られて、シャザームに加入出来た事が後に、ケヴィンの耳に入ると、私はネチネチとした厭がらせを毎度毎度、彼から執拗に受ける事になってしまうのである…。