エクアドルマラソン250キロ完走記 その20 | カザマカズマが赤道直下250キロを走る

カザマカズマが赤道直下250キロを走る

2016年7月にエクアドルマラソン250キロレースにチーム戦で出場し、世界一を目指します。

 
第20話 クララが坂道ダッシュして伝説を語る



“ぐっさん!時計見ないで行きましょう!昨日も時計見ないほうが、良い走りしてましたよ。”



そうオカケンさんが、僕に話しかけた。


まるで、


時計のような機械仕掛けのおもちゃに、お前の翼を預けてていいのかい?

(はい?)


お前は鷹だろ?
お前の翼は何のためにあるんだ?
大空を掴むためだろ?


デジタルに生きるな!
ロックに生きようぜ!


そう語ってるように聞こえました。


(ぶつぶつ何言うてんねん!)


“エエそうしましょう。リズムで行きますわ”


そう答えました。


まるで、


フッ、お前には敵わねーな。
忘れてたぜ、
俺が血に飢えた虎だってことをな。


(鷹ちゃうんかい!)


知らない間に、時計という檻の中で
規則正しさを自分らしさと
置き換えてたみたいだな。


大空掴みに行くぜ!
ついて来いよ、竹原!


(おかざきや!)


ふくらはぎが浸かる程度の浅い川なんですが、急流で、ロープを離すと流されてしまいます。




高さ5mくらいやったかなぁ?


丸太橋の上をへっぴり腰で渡る


(大空掴む鷹ちゃうんかい!)




そして、この山の上を登って行きます。




もう少し上に登ると、
アリの巣を側面からみたような道があって、


その道幅は片足分くらいしかない、
狭く、急、かつ不整地で、
一歩進むたびに、乳酸がどんどん
ふくらはぎにたまってきて
きつかったのですが、


リズムに乗っていたのと、
ここは圧勝したいという気持ちで、

僕たちの順位は、序盤、
12~13番辺りで、
女子のトップを捕らえる位置まで
来てました。


上りきった所の写真






めちゃくちゃ綺麗なんですよ。


アルプスの少女ハイジで見たような、
丘陵地帯で、

これは、クララもイス座ってる
場合ちゃいますよ!



坂道ダッシュしよりますよ!


景色良いし、最高やなぁ~。

なんてはしゃぎながら、
第一チェックポイントで一休み。


今日は乗ってるし、景色最高!
と思ってたのも束の間。


この後に、

僕がエクアドルマラソンで、
数々のコースを経験してきた中で、


二度と行きたくない、きつい場所が
待ってました。


ここは標高3500くらい、
酸素は薄く、ぐっと前かがみで
踏ん張らないと、身体を持って行かれてそうになる、強烈な風をうけ、
砂嵐で前方が霞んでいる中を、


さぶい…さぶい…

これはホンマにやばい…


と、かすれた声をもらしながら
進んで行きました。






写真で見ると、何の変哲も無い所
なんですが、ここは、
楽しくないうえに辛かった。


踏ん張って歩いていると、
ハッ!と、あることに気づいた。


後ろを歩いているはずの
オカケンさんの気配がない!


取り乱すように後ろを向くと、
僕を風よけにするように、
ベタッと後ろについていたんですが、


生気が感じられない。


万が一のために、ズボンの左ポケットに
入れていたホイッスルを握りしめて、
歩いてました。

いよいよになったら、
助けを呼ぼうと思って。


ここは本当にキツかった。


第二チェックポイントを見つけときの
ふたりの第一声は、


“生きてたー!”だった。


ここで、少し休憩して、
生気を取り戻したが、


スタートしていきなり、
石畳の階段を長々と上らされて行く。


せっかく生き返らせたのに、
一気に気持ちが死んで行く。


ヘトヘトになって、
上りきった先に、
女性スタッフが座っていて、


両手をバッと広げながら、


“ようこそ!素晴らしい景色よ!”


と自分の後ろを見るように促してきた。


いや~。僕たち先急いでるんで~。
景色とか間に合ってますから~。


と新聞の勧誘を断るような
気だるさを見せながら、
その景色を視界に入れた。



その瞬間、僕たちは、
きついとか、辛いとか、
負の感情だけでなく、
嬉しい、楽しい、あらゆる
全ての感情を忘れていた。


心を完全に奪われてしまった。



オカケンさんがボソッと、


“これは伝わらないですわ~。”


景色からは、少しも目を離さずに、
そう言葉をこぼした。


“写真では、言葉では伝えられないですわ”








キロトア湖といいます。





“ぐっさん、僕は痴呆になっても忘れませんわ。






“この景色を知ってる人間が、日本で、世界で何人います?

200キロ近くを、何日もかけて、この景色を見た人間が何人います?






“これは、僕たちが作り上げた伝説ですわ!”





“ぐっさん、一生語りましょうね!”



そう熱く語りかけるオカケンさんが、
よりによって、島田紳助に見えました。


(素敵やん!)



続く