日本から一万円札がなくなる日 -国家のデジタル通貨発行について- | 中谷一馬オフィシャルブログ「おもしろき こともなき世を おもしろく」Powered by Ameba

日本から一万円札がなくなる日 -国家のデジタル通貨発行について-

先日、日本経済新聞の一面に、”デジタル通貨 中銀に待望論”という見出しが躍り出ました。

 

これは、世界の中央銀行が、法的な裏付けを持つデジタル通貨の発行を相次いで検討し始めているという内容です。驚異的な速さでビットコインなどの仮想通貨が普及し続けると、資金決済サービスなどで自国通貨の存在感が低下し、いずれ金融政策にも影響を及ぼしかねないとの危機感が検討を進める大きな要因の一つです。

 

中央銀行のデジタル通貨発行については、キャッシュレス化を推し進める抜本的な手段として期待する見解がみられている中、世界各国では、活用に関する研究が進んでおり、銀行券や硬貨の発行・管理に伴うコストを削減しようとする動きが活発化しております。

 

例えば、シンガポールでは、 現金や小切手といった紙ベースの決済手段の利用に伴うコストは GDPの0.52%に達すると試算されており、現金から電子的な決済手段への移行を後押しする取り組みが進められております。

 

また、デンマークでは、中央銀行による銀行券や硬貨の新規製造を2016 年から取り止め外注化することが公表されており、この結果、2020 年までには 1 億クローネのコスト節約につながると試算されています。

 

さらに、エストニアでは、自国のクレジットで仮想通貨価値を高めると同時に、世界中からエストニアへの資金調達を容易にする仕組みづくりを行おうと国家初のICO(Initial Coin Offering / イニシャルコインオファリング)となる独自のデジタル通貨「エストコイン」を発行する計画を明らかにしました。

ただ、欧州中央銀行(ECB)が「ユーロ圏の通貨はユーロ。加盟国はその国独自で通貨を発行することはできない。」と牽制する中で、ICOによる仮想通貨政策ならば自国での発行も可能という見解で前に進むエストニアが今後どのようなやり取りをいっていくのか注目される場面であると思います。

 

そして、スウェーデンにおいては、Swishと呼ばれるスマートフォンを使った決済アプリが国民の間で広く使われていることを受け、商業銀行の間では、現金関連サービスの縮小や店舗の統廃合など、コスト削減に向けた動きが進められています。2018年末には、デジタル通貨「eクローナ」の発行に関する可否を判断することとなっており、実現すれば銀行口座を持っていない人でも店頭で電子決済が可能になリます。

 

またロシアでも、プーチン大統領がビットコインに次ぐ仮想通貨イーサリアムを生んだ起業家のヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏に会い、支持を表明しました。そしてロシア中央銀行が、イーサリアムの技術を活用したシステム開発を行うと表明し、ロシア初の法定デジタル通貨発行への研究が進められております。

 

その他にも、オランダ、カナダ、英国などの中央銀行も一斉に研究に乗り出しております。

 

しかし、中国では2016年1月にデジタル通貨の発行を検討すると表明している一方で、暗号通貨やその技術を使ったICOによる資金調達を突然全面禁止にしました。様々な理由があるかと思いますが、私感の推察では、中国のような一党独裁制の社会主義共和国の中で、オープンに開かれたブロックチェーンの活用による仮想通貨を用いた資金調達などデジタル通貨の利用拡大が行われることは、結果として国家の将来的な存続を危ういものにするという危機感の現れかもしれません。

 

 

そうした中、日本でも日本銀行や金融界を中心に「第2の円」ともいえる安全なデジタル通貨の活用論が広がっております。

 

日本銀行が発行する日本銀行券、および造幣局が製造し政府が発行する貨幣(硬貨)をといった法定通貨をデジタル通貨に段階ごとに切り替えていくことは、銀行券や硬貨の発行に加え、現金や小切手といった紙ベースでの決済手段の利用管理に伴うコストを削減に繋がると同時にユーザー利便性の向上、金融政策の有効性確保、通貨発行益(シニョレッジ)減少防止にも繋がります。

 

また、デジタル通貨革命によるキャッシュレス化は、効率性・利便性を高め、社会のスマート化を進めることに繋がり、金融、経済、観光、福祉、行革などあらゆる分野でポジティブな効果をもたらす可能性があると考えます。

 

例えば、企業の資金調達、税金の納付・還付、年金や生活保護費等の支給、そして世界中の観光地で自分のウォレットからエクスチェンジの必要なく、デジタル通貨により支払いができる仕組みなど世界中のありとあらゆる環境や組織の中で、お金が流通しやすくなる仕組みづくりを行うことが可能となります。

 

それに加え、価値の保証を持たない民間の仮想通貨に関しては、無法地帯になっている現状を正し、秩序を抑制しながらネガティブな要素を抑えつつも、イノベーションの源泉となるポジティブな要素を成長させるルールづくりをしっかりと行うことが必要です。

 

中国が、ICOの全面禁止など市場への規制を強め、リスクヘッジをする一方で、成長を遅られる対応を行う中、日本がこの市場で主導的な立場を取ることができれば、日本の経済界や金融業界にとってはとてつもなく大きなチャンスに繋がると考えております。

 

こうした観点から私も民進党内の政策ベンチャーにおける経済チーム内で、この日本銀行のデジタル通貨発行について進言をさせて頂いております。

 

まだ研究段階ですが、より良い政策に磨き上げ、次回の民進党マニフェストの経済金融政策内に加えて頂きたいと考えております。

 

拙い経験ですが、私の企業経営に携わった経験を活かし、民進党が弱いとされている経済、金融政策を今後も更にブラッシュアップすることで、国民の皆様からの信頼を得られるように、日々研究を重ねて参りますので、今後ともぜひご注目ください。

 

==下記、政策立案に関する参考資料==

 

◇日本銀行レビュー 

中央銀行発行デジタル通貨について

―海外における議論と実証実験― 

引用 要約まとめ

 

〇はじめに

新しい情報技術を各種の金融サービスに活用していく「フィンテック(FinTech)」への関心が世界的に高まっている。この中で、日本銀行をはじめ各国の中央銀行も、フィンテックの動向に対して大きな関心を向けている。この背景には、大きく分けて2つの要素があるように思われる。

第一に、中央銀行は、支払・決済システム の安定などの責務を負っており、このような責務を果たす上で、フィンテックが金融・経済全般に及ぼす影響をしっかりと把握していく必要があるということである。

第二に、中央銀行は、銀行券や中央銀行当座預金、大口決済システムといった、経済社会を支える基盤インフラを、自ら提供しているということである。この中で、その時々で利用可能な技術を活用し、自ら提供するインフラの改善を通じて経済社会への貢献を果たしていくことも、中央銀行としての重要な役割といえる。

 

〇ブロックチェーン・分散型元帳技術と中央銀行

 

フィンテックの代表的な技術とされるブロックチェーン・分散型元帳技術(Distributed Ledger Technology、DLTは、2008 年、仮想通貨「ビットコイン」を支える基盤技術として考案された。こうした誕生の経緯から、ブロックチェーン・DLT は、ビットコインなどの仮想通貨との関係が注目されがちである。しかしながら、ブロックチェー ン・DLT は、「中央に特定の帳簿管理主体を置くかわりに、複数の参加者による『分散型』での帳簿管理を可能とする技術」と捉えることが妥当である。したがって、この技術の応用範囲は仮想通貨にとどまるものではなく、各種の財産権の管理など、幅広い応用が可能と考えられる。

 

 

言うまでもなく、中央銀行はそれ自体「中央帳簿管理者」とみることもできる。すなわち、中央銀行は自らの債務として銀行券を発行し、また中央銀行当座預金を提供している。したがって、これらを管理している中央銀行の「帳簿」に前述のブロックチェーン・DLT を応用したらどうなるのか、といった発想が出てくるのは自然な流れともいえる。

 

ここで留意すべきは、「中央銀行によるブロックチェーン・DLT の活用」を巡る議論は、必ずしも「現在流通している紙の銀行券をデジタル形式のものに置き換える」という、いわゆる「中央銀行発行デジタル通貨」に関する議論に限られている訳ではないということである。すなわち、既に実質的にはデジタル化されたデータとして管理されている中央銀行当座預金について、データの管理方法を集中的なやり方から、ブロックチェー ン・DLTを活用した分散的なやり方に移行させたらどうなるか、といった議論も含まれている。

 

 

〇中央銀行発行デジタル通貨を巡る議論

そこでまず、中央銀行がデジタル通貨を発行することのインプリケーションについて、主に海外で行われている議論をみていく。もっとも、既に1990 年代にも、「中央銀行が『電子マネー』を発行したらどうなるか」といった議論が盛んに行われていた。したがって、「中央銀行がデジタル通貨を発行したらどうなるか」という議論は、必ずしも新しいものばかりではなく、これまでの議論と重なる部分も多い。

その上で、中央銀行がデジタル通貨を発行することのメリットとして主張される内容は、以下の 3つに大別されるように思われる。

 

①ユーザー利便性の向上

紙の銀行券のハンドリング・コストや保管コストがますます強く意識されるようになっている中、中央銀行が最新の情報技術を活用してデジタル通貨を発行することは、ユーザーの利便性に資するとの主張である。

まず主要国における通貨流通残高の対GDP 比率をみると(図表3)、

 

 

2010 年から 2015 年にかけて日本や香港では同比率が高い伸びを示している一方で、国際決済銀行(BIS)傘下の決済・市場インフラ委員会(Committee on Payments and Market Infrastructures、CPMI)加盟国・地域の平均は横ばい圏内の動きとなっているほか、キャッシュレス化の進むスウェーデンでは顕著に低下している。こうした中で、例えばシンガポールでは、 現金や小切手といった紙ベースの決済手段の利用に伴うコストは GDPの0.52%に達すると試算されており、現金から電子的な決済手段への移行を後押しする取り組みが進められている。欧州でも、北欧を中心に社会のキャッシュレス化が進んでおり、銀行券や硬貨の発行・管理に伴うコストを削減しようとする動きが活発化している。このうち、デンマークでは、中央銀行による銀行券や硬貨の新規製造を2016 年から取り止め外注化することが公表されており、この結果、2020 年までには 1 億クローネのコスト節約につながると試算されている。また、スウェーデンにおいてはSwishと呼ばれるスマートフォンを使った決済アプリが国民の間で広く使われていることを受け、商業銀行の間では、現金関連サービスの縮小や店舗の統廃合など、コスト削減に向けた動きが進められている。このような動きの中、中央銀行デジタル通貨について、キャッシュレス化を推し進めるより抜本的な手段として期待する見解がみられている。

 

このほか、ブロックチェーン・DLT 技術を用いて有価証券などの権利移転や関連事務の効率化を図っていく上では、同様にブロックチェーン・DLTで処理できる中央銀行マネーが発行されていれば、証券と資金のDVP ( delivery-versus -payment)が実現しやすいのではないか、といった議論がある。

 

②金融政策の有効性確保

ビットコイン等の仮想通貨のプレゼンスが中央銀行発行通貨(ソブリン通貨)を凌駕するまでに拡大し、これがそのまま財やサービスの取引に用いられるようになれば、金融政策の有効性低下は避けられない。この点、中央銀行が自らデジタル通貨を発行すれば、紙のコスト故に銀行券が仮想通貨に凌駕されるといった事態を避けることができるとの主張である。

また、中央銀行の発行するデジタル通貨が紙の銀行券を代替していけば、デジタル通貨の残高を操作することにより、「名目金利のゼロ制約」を乗り越えやすくなる可能性も論じられている。

 

③通貨発行益(シニョレッジ)、その他

さらに、中央銀行が自らデジタル通貨を発行すれば、仮想通貨との競争を受けたシェア低下による通貨発行益(シニョレッジ)減少を防ぐことができるとの議論がある。この間、中央銀行デジタル通貨の発行が、不正行為の抑止に役立つのではないか、といった主張も一部にみられる。もっとも、これらの主張の一方で、いくつかの留意点も提起されている。

まず、中央銀行がデジタル通貨を発行した結果、民間銀行預金から中央銀行発行デジタル通貨への資金シフトが起これば、民間経由の資金仲介が細っていくのではないか、との見解がある。さらに、金融システムのストレス時には、民間銀行預金から中央銀行発行デジタル通貨への資金シフトが加速し、この結果、民間銀行の流動性不足がより起こりやすくなるのではないか、といった議論もある。

また、ビットコインなどの仮想通貨が信認のあるソブリン通貨を凌駕して拡大していくとは考えにくく、この点を過度に心配すべきではない、との見方も多い。さらに、中央銀行がデジタル通貨を発行しても、紙の銀行券を廃止しない限り、やはり「名目金利のゼロ制約」の問題は残り続けるとの指摘もある。

このほか、より根本的な問題として、中央銀行が全ての取引にかかる情報を把握し得るような形でデジタル通貨を発行する場合、中央銀行はこれらの情報をどのように取り扱うべきかといった問題もある。

加えて、中央銀行が広く一般向けに、銀行券を代替し得るような形でデジタル通貨を供給する場合、これは中央銀行口座を広く一般に開放することと近くなる。このことは、「中央銀行はいかなる主体に口座を提供すべきか」という観点からも、興味深い論点を提起するものといえる。

以上みてきたように、中央銀行発行デジタル通貨を巡る議論は多岐にわたっているが、いずれも、中央銀行や通貨、経済取引における情報の取扱いなど、深遠な論点につながり得るものといえる。

 

〇中央銀行によるブロックチェーン・分散型 元帳技術の実証実験

このように、中央銀行発行デジタル通貨を巡る議論が続いている中、このところ、中央銀行が自ら、ブロックチェーン・DLT に関する実証実験を行う事例がみられるようになっている。対外公表資料をもとに、これらの中央銀行のスタンスをみると、「ブロックチェーン・DLTという新しい技術をより良く理解するため」という動機を掲げている先が多く、これらの技術を実際にどう活用していくかという論点とは切り離した形で、実験が行われている。すなわち、中央銀行として、「自ら新しい技術を使っていく」という視点だけでなく、支払・決済システムの安定といった中央銀行の責務を果たしていく観点からも、こうした実証実験を行っていくことが有益という考え方に根ざしている。

以下、代表的な中央銀行の事例を順にみていく。

 

① オランダ(オランダ銀行)

 オランダ銀行は 2016 年 3 月、年次報告書の中で、ブロックチェーン・DLT を基に「DNBcoin」の試作品を開発する旨、公表している。その基本的な考え方について、同年 6 月の幹部講演では、ビットコインのソフトウェアを中央銀行が自ら試してみることにより、ブロックチェーンの機能についてより深く理解できるとしている。そのうえで、DNBcoin はあくまでオランダ銀行内部での試験に主眼をおいて開発されたものであり、広く一般に流通させる予定はないとしている。

 

② カナダ(カナダ銀行)

 カナダ銀行は、2016 年 6 月 17 日のウィルキンス副総裁の講演等において、商業銀行や民間企業と連携し、DLT の実験を行う旨、公表している。 実験の概要については、各種フォーラム等の場でカナダ銀行のスタッフより説明がなされている。例えば本年 10 月に開催されたシカゴ連銀主催「シカゴ・ペイメンツ・シンポジウム 2016」では、銀行間取引を再現した擬似環境のもとで、この実験に参加する民間金融機関がカナダ銀行の特別勘定に資金を担保として差し入れ、その見合いとしてカナダ銀行が DLT に基づく中央銀行債 務(預金証券)を発行すると紹介されている。なお、カナダ銀行では、本実験の目的について、実験的な大口決済システム環境の中でDLTをテストすることを通じて、この技術のメカニズムや限界、可能性を理解することにある、としている。

 

③ 英国(イングランド銀行等)

英国では、2016 年 2 月、ロンドン大学の研究者がイングランド銀行スタッフとの議論を経て、中央銀行発行デジタル通貨である「RSCoin」を提案する論文を公表している。このスキームでは、中央銀行と利用者の間に介在する複数の「ミンテッツ(mintettes)」と呼ばれる主体が RSCoin を発行・管理する上で一定の役割を果たすことが想定されている。すなわち、中央銀行は RSCoin の発行主体となる一方で、取引内容の精査、承認および関連する情報の中央銀行への送信といった処理は、複数のミンテッツに委託されることが想定されている。そのうえで、ミンテッツが適切に機能することを担保するため、中央銀行は取引検証を通じて生成されるブロックチェーンの「ブロック」の整合性を継続的に確認し、仮に不適切な処理を検知した場合には、そのような処理を行ったミンテッツを排除する仕組みとなっている。

また、イングランド銀行のカーニー総裁は、2016 年 6 月の講演の中で、中央銀行のコア業務にDLTを活用することを検討する考えを明らかにしており、また、中央銀行デジタル通貨を巡る論点についても調査分析を行っているとしている。さらに、2016 年 9 月、RTGSシステムの再構築に関する市中協議書の中で、DLTはまだ技術として成熟しておらずRTGS システムに必要な極めて高水準の安定性を満たすにはいたらないものの、決済のあり方を変える潜在能力を秘めており、引き続き、学界、海外の中央銀行およびフィンテック企業とも連携して調査を行っていくとしている。

 

④ ロシア(ロシア銀行)

ロシア銀行は 2016 年 10 月、市場参加者と連携し、Masterchain」という DLT を用いた金融情報伝達ツールの試作品を開発したと公表している。 ロシア銀行のスコロボガトヴァ副総裁は、同試作品について、今後、ロシア銀行が立ち上げる「FinTech コンソーシアム」において検討を継続し、将来的には次世代金融インフラに活用することも検討すると発言している。

 

 ⑤ 中国(中国人民銀行)

中国人民銀行は現時点で、ブロックチェーン・ DLT に関する実証実験を行っていると発表している訳ではない。その一方で、中国人民銀行は、中期的に自らデジタル通貨を発行する構想がある旨、対外的に明らかにしている。すなわち、中国人民銀行は 2016 年 1 月 20 日にデジタル通貨に関する検討会を開催し、専門家との間でデジタル通貨に関する意見交換を行っている。そのうえで、この検討会は、中国人民銀行のスタディグループが、国内外のデジタル通貨に関する研究成果等を取り込むとともに、中央銀行としてデジタル通貨に対する戦略目標をより一層明確にし、一日も早い中央銀行発行デジタル通貨の発表に向けて努力するよう求めている。

また、同行の范副行長は、2016 年 9月 1日のブルームバーグ社への寄稿の中で、中国人民銀行が検討しているデジタル通貨の発行形態に関して、まずは、民間銀行に対して発行され、民間銀行が一般の顧客に対しその預入や払出に関する サービスを提供する、いわば「間接型」のアプローチの採用に傾いている旨述べている。本アプローチが望ましい理由について、范副行長は、現在の銀行券流通の枠組みを活用する方が、中央銀行発行デジタル通貨が紙の銀行券を徐々に代替していくことを容易にすると考えられることや、中央銀行発行デジタル通貨の管理に民間銀行も参加することは、リスク分散やイノベーション促進、実体経済への寄与や人々のニーズへの対応にも資するといった理由を挙げている。

 

〇若干のインプリケーション

(中央銀行にとってのフィンテックの重要性)

以上みてきたように、主要中央銀行が、フィンテックの代表的技術であるブロックチェーン・DLT や、その中央銀行マネー(銀行券、中央銀行 当座預金)への応用について、調査分析だけではなく、実証実験にも着手する例がみられるようになっていることは、中央銀行にとってのフィンテックの重要性を示すものといえる。すなわち、中央銀行として、支払・決済システムの安定といった責務を適切に果たしていく上でも、また、中央銀行自身が提供するインフラの改善を図っていく観点からも、これらの技術を十分に理解していく必要があると考えられる。

 

(中央銀行によるブロックチェーン・DLT 活用の多様性)

「中央銀行によるブロックチェーン・DLT の活用」という場合、「ビットコイン」などとのアナロジーから、「現在の銀行券を中央銀行発行電子マネーのようなもので置き換える」といったものが話題となりがちだが、必ずしもこうした形態のものに限られる訳ではない。すなわち、中央銀行の発行する債務には、銀行券だけでなく中央銀行当座預金も存在する。したがって、「中央銀行によるブロックチェーン・DLT の活用」を巡る議論の中には、既にデジタル化されたデータの形で管理されている中央銀行当座預金について、そうしたデータ管理に DLT などの新しい技術を応用するとどうなるか、というものも含まれる。また、 実際に行われている実証実験などをみても、銀行間取引に関連する、いわばホールセールの擬似環境に DLT 技術を応用したり(カナダ銀行)、民間 銀行に対し中央銀行発行デジタル通貨を供給する「間接型」の形態が指向されるなど(中国人民銀行)、その内容はさまざまである。

(中央銀行発行デジタル通貨を巡る議論の発展可能性)

また、多くの主要中央銀行や国際機関が、中央銀行発行デジタル通貨に関する調査研究に着手している背景には、その発展可能性も挙げられる。すなわち、中央銀行がデジタル通貨を発行すべきか、また、発行する場合、どのような形態を採るべきかという議論は、決済における銀行など民間経済主体と中央銀行との役割分担といった問題にも関わり得るものといえる。具体的には、決済における民間のイニシアティブをどのように活用していくべきか、その一方で、中央銀行は、ファイナリティのある中央銀行マネーをどこまで踏み込んで供給していくべきか、といった論点が挙げられる。このような論点は、伝統的な「ナローバンク論」を巡る議論とも関わり得るものといえる。さらには、中央銀行はいかなる主体に対して口座を提供すべきか、また、資金仲介における期間変換を通じた民間銀行の役割をどう考え るべきか、といった金融や中央銀行を巡る本源的な議論にもつながり得る。

 

〇おわりに

フィンテックやデジタル情報技術が金融サービス全般に及ぼし得る潜在的影響力の大きさなどを踏まえ、現在、主要中央銀行に加え、多くの国際機関もこの問題に注目し、これに特化した検討グループを立ち上げるなど、取り組みを強めている。例えば、前述のBIS・CPMI では、「デジタル・イノベーションに関する作業部会」を設立し、 上記の諸問題に関する検討を行っていく予定である。これら国際機関の検討においても、ブロックチェーン・DLT などの新技術の中央銀行業務への応用可能性や、これらが中央銀行の政策・業務などに及ぼす影響が、主要な論点の一つとなっていくことが見込まれる。

日本銀行としても、中央銀行によるブロックチェーン・DLTの活用を巡る海外中央銀行による調査研究や実証実験の動向を丹念にフォローするとともに、自らもさまざまな視点からこの問題への考察を深めていく。そのうえで、BIS などでの国際的な議論にも、積極的な貢献を果たしていく考えである。

 

 

◻︎日本経済新聞(2017/9/8) デジタル通貨 中銀に待望論 記事引用↓

 

 

世界の中央銀行が、法的な裏付けを持つデジタル通貨の発行を相次ぎ検討し始めている。今の驚異的な速さでビットコインなどの仮想通貨が普及し続けると、資金決済サービスなどで自国通貨の存在感が低下し、いずれ金融政策にも影響を及ぼしかねないとの危機感からだ。日本でも日銀や金融界を中心に「第2の円」ともいえる安全なデジタル通貨の活用論が広がってきた。

 「プーチン大統領はビタリック・ブテリン氏に会い、支持を表明した」。6月2日、ロシアのクレムリン(大統領府)が出した公表文に日銀幹部の目はくぎ付けになった。19歳でビットコインに次ぐ仮想通貨イーサリアムを生んだ起業家のブテリン氏。ロシア中央銀行はイーサリアムの技術を活用したシステム開発を表明済みで、ロシア初の法定デジタル通貨発行へ両氏のタッグが動き出したとの臆測が広がる。

 

 スウェーデンはデジタル通貨「eクローナ」の発行に関する可否を2018年末に判断する。実現すれば銀行口座を持っていない人でも店頭で電子決済が可能になる。

 

 中国は16年1月にデジタル通貨の発行を検討すると表明。エストニアは8月、独自のデジタル通貨「エストコイン」を発行する計画を明らかにした。オランダやカナダ、英国の中銀も一斉に研究に乗り出している。

 

 デジタル通貨を中銀自ら構想する背景について、日銀はリポートで「金融政策の有効性を守るため」だと指摘する。Suica(スイカ)のような電子マネーは法律で承認され円の価値が裏付けだ。だがビットコインのような仮想通貨は価格変動が大きいうえ流通量の制御ができず、中銀には外貨と同じ。いまは投機目的の購入が大半でも、様々な決済に仮想通貨が用いられるようになれば「金融政策の効果が減殺されうる」(日銀)。

 

 ビットコインの時価総額は8月、820億ドル(約9兆円、分裂したビットコインキャッシュを合算)と年初から5倍に膨らんだ。仮想通貨の主要100通貨では1700億ドル(約19兆円)に達する。安定した価値や流通性など一般受容性と呼ばれる通貨に必須の条件にも乏しいが「いずれ脅威になる可能性を排除できない」(日銀幹部)。

 

 中央銀行は無利子で低コストに通貨を発行できるため、それを国債などで運用することで生じる「シニョレッジ」という会計上の通貨発行益を長期間計上できる。仮想通貨の急増で日銀法などを裏付けとした円のシェアが落ちれば、発行益が減って日銀の財務が悪化する懸念もある。

 

 

 

19世紀半ばに通貨の独占発行権を握った世界の中銀。ブロックチェーン(分散台帳)と呼ばれる画期的な技術に支えられた仮想通貨の急成長で「中銀は自らの通貨の利便性を高めるグローバルな競争に巻き込まれつつある」と日銀の初代フィンテックセンター長を務めた岩下直行氏(京大教授)は指摘する。

 

 日本は有数の現金大国で、日銀の通貨発行額は約100兆円だ。その半分近くが日常的な決済ではなくタンス預金に退蔵される。現金はマネーロンダリング(資金洗浄)など不正の温床にもなり、北欧ではキャッシュレス化が推進されている。デジタル通貨は「脱現金」の起爆剤になりうる。

 

 もっともほとんどの中銀は一足飛びで一般に流通するデジタル通貨を考えているわけではない。日本では三菱UFJフィナンシャル・グループの「MUFGコイン」などブロックチェーンを核にしたデジタル通貨の青写真がある。どこでも自由に使えるデジタル円を出せば日銀のデータ処理が膨大なばかりか、民間銀行の業務を圧迫するなどハードルが高い。日銀もまずは金融機関との当座預金のやり取りなどに限りデジタル通貨を導入できないか探る構えだ。6日に日銀が公表した欧州中央銀行(ECB)との共同実験結果ではデジタル通貨でも現行の日銀ネットと同じ速度で決済を処理できたという。

 

 日本取引所グループ(JPX)は昨年のペーパーで証券取引に新技術を使う際、分散台帳の技術を使った第2の円があれば「活用可能性が飛躍的に高まる」と訴えた。決済コストが下がれば企業などにも広く恩恵が及ぶ可能性が出てくる。

 

 「米連邦準備理事会(FRB)はデジタル通貨を導入すべきだ」。5月、イエレンFRB議長の顧問を務めていたアンドリュー・レビン・ダートマス大教授らの発言が話題をさらった。「中銀が法律で決められたことだけをやればいい時代は終わった」。岩下氏は指摘する。国籍を持たない仮想通貨は利便性向上と技術革新を怠った通貨を駆逐しかねない。次に待つのは中銀が発行するデジタル通貨が基軸通貨の座を競い合う未来かもしれない。