安倍政権の【内閣支持率 approval rate】が30%を切ったことを時事通信(29.9%)と報道ステーション(29.2%)が報じました。実は、時事通信社と報道ステーションの内閣支持率は他の報道各社と比較して低く出る(後述)のですが、そんなことはどうでもよいかのように、多くのマスメディアは、これらの数字を深刻な面持ちで報道し、「支持率は30%を切り、政権は危険水域に入った」と強調しています。その一方で、同時期に行われた共同通信の世論調査における内閣支持率35.8%は既に忘れられた感があります。それは、おそらくこの数字では「支持率は30%を切り、政権は危険水域に入った」というセンセーショナルなキメ文句を使えないためであると推察します。
冒頭に示した図は、新聞・テレビ報道各社の安倍内閣支持率を示したものですが、実際に新聞・テレビメディアの世論調査の結果には、報道各社によって系統的なの【偏向 bias】が認められます。さらに、この偏向はけっして短期的なものではなく、長期間にわたり継続的に支持率が高く出たり不支持率が低く出たりしています。
この偏向の要因は、主として調査方式の違いおよび質問内容の違いによるものであると考えられます。
まず、調査方式の違いによる影響については、[過去記事]にも書きましたが、米メディアの[ポリティコ]が興味深い事実を明かしています。ポリティコによれば「インタヴュアーが質問する電話世論調査」と比較して匿名性が高い「自動メッセージが質問する電話世論調査」や「インターネット世論調査」では大統領令に対するトランプ大統領の支持率が高くなるとのことです。これはまさに「隠れトランプ現象」と通じるものであり、【ポリティカル・コレクトネス political correctness】に反するとメディアが絶え間なく批判している事案について人前で賛成することを躊躇するものです。一般的に、人間には、注目されると注目する側の期待に応えるような傾向があることが知られています。これは【ホーソン効果 Hawthorne effect】というものであり、ポリティコが指摘した「匿名性が高くなるとトランプ支持が強まる」という現象は、「メディアはトランプに反対している」ということを大衆に見透かされていることを暗に示しています。このことから、調査方法を変えれば異なる世論調査結果が得られることがわかり、マスメディアが恣意的に世論調査結果を操作することが可能であると言えます。
一方、質問の違いによる影響については、憲法の賛否に関する各社の世論調査の結果の違いを例として、[毎日新聞]と[産経新聞]が分析しています。毎日新聞は、質問の文言や回答の選択肢が違うことが影響を与えていると指摘しています。産経新聞は、同じく憲法の賛否に関する各社の世論調査の結果の違いについて、質問に付加される説明の長さや質問の順番が影響を与えていると指摘しています。いずれの分析も「経験者は語る」的なものですが(笑)、十分に根拠が言説であると考えます。この点でも、マスメディアが恣意的に世論調査結果を操作することが可能であると言えます。
このような偏向の要因については今後分析するとして、この記事では、報道各社によって世論調査結果の偏向がどのような特徴を持つのかについて明らかにしたうえで、偏向を可能な限り除去した時系列データを構成した上で世論調査の変動について時系列分析してみたいと思います。
報道各社の世論調査結果の特徴
先にも述べたとおり、大局的に見て報道各社の偏向は系統的に一方向に振れています。そこで、この偏向の程度を把握するための指標として、安倍政権の全期間において、各社における平均支持率と平均不支持率を求め、これを全社の平均支持率52.7%と平均不支持率である32.9%と比較しました。ちなみに、この指標の値を用いて各社の調査結果を線形補正すると、支持率・不支持率ともに、大幅に偏向を補正することができます。
(上図は生データをプロット、下図は偏向をフィルタリングした補正データをプロット)
この結果から平均支持率と平均不支持率を指標とする各社の比較は概ね妥当であると考えられます。次の表は報道各社の偏向の程度を平均支持率と平均不支持率を基に比較したものです。。
表中の「政権親和度」という値は、政権と世論調査結果との親和度を示す指標であり、次式で定義しました。
(定義)政権親和度=(支持率/不支持率-平均支持率/平均不支持率)/支持不支持比の標準偏差
この政権親和度の値が低いほど、世論調査結果は政権にとって厳しい値であると言え、高いほど政権にとって優しい値であると言えます。また、0に近いほどニュートラルであるとも言えます。ここで、これらの値を参考にしながら、報道各社の支持率・不支持率の傾向について個別に見ていきたいと思います。
朝日新聞 支持率-5.7 不支持率-0.9
朝日新聞の世論調査結果は、支持率が他社平均に比べて5.7%と最も低く、政権との親和度が最も低い結果になっています。朝日新聞は調査員が電話をかける方式をとっていますが[朝日RDD]、先述した心理効果が作用して被験者が真実を答えられていない可能性があります。調査員が被験者に朝日新聞の調査であることを明かした場合には【ホーソン効果】による忖度が行われても不思議ではありません。
読売新聞 支持率+4.1 不支持率+0.4
読売新聞の世論調査結果は、支持率が他社平均に比べて4.1%高く、政権との親和度が高い結果になっています。読売新聞はRDD追跡方式電話聴取法という方式をとっていますが、その詳細は不明です。朝日新聞との支持率の差は約10%もありますが、日本の二大紙の支持率調査結果にこのように大きな差があるのは健全な状態とは言えません。支持率は政権を支持するか、不支持するか、支持も不支持もしないかという3つの選択肢の単純な選択です。そのファクトに10%の系統誤差があるというのは極めて不可解であると言えます。
毎日新聞 支持率-3.0 不支持率-1.1
毎日新聞の世論調査結果は、支持率は他社平均に比べて3.0%低く、政権との親和度も新聞では朝日新聞に次に低い結果になっています。やはりこのあたりが指定席なのでしょうか(笑)。
日本経済新聞・テレビ東京 支持率+2.8 不支持率-0.8
持分法適用関連会社の日本経済新聞とテレビ東京の共同世論調査結果は、支持率は他社平均に比べて2.8%高く不支持率が0.8%低いため、結果として政権との親和度が最も高い結果になっています。読売新聞は[RDD方式]をとっています。日経新聞の主たる読者層である経済・金融関係者は、【現状維持バイアス status quo bias】も相まって、政権安定を好ましく考える傾向にあります。その意味では、日経新聞は読者にとって好ましい数字を提供していると言えます。
共同通信 支持率+2.2 不支持率-0.1
日本最大の購読者数を持つとされる共同通信の世論調査結果は、支持率は他社平均に比べて2.2%高く、政権との親和度が高い結果になっています。調査方式はRDDです。
時事通信 支持率-3.8 不支持率-3.2
時事通信の世論調査結果は、支持率は他社平均に比べて3.8%低く、不支持率も3.2%低い結果になっています。時事通信は、[調査員による個別面接聴取法]を採用していて、支持率推移のフラクチュエーションは他社と比べて小さいと言えます。ただし、心理効果が作用して被験者が真実を答えられていない可能性もあり、支持率が低く出ています。
NHK 支持率-1.0 不支持率-1.2
公共放送のNHKの世論調査は、支持率・不支持率ともに僅かに低い結果となっています。調査方式は、朝日新聞と同様に、調査員が調査相手に[RDD方式]で電話をかけて口頭で質問するということですが、結果には朝日新聞のような偏向はありません。おそらく、朝日新聞とは質問の内容が異なっているものと考えられます。
日本テレビ 支持率-3.5 不支持率+0.1
読売系列の日本テレビの世論調査は、支持率が他社平均よりも3.5%低く、政権親和度が朝日新聞の次に低い結果となっています。調査方式はRDD電話調査です。質問の内容は「あなたは、安倍晋三連立内閣を支持しますか、支持しませんか?」というシンプルなものです。実際にどのような調査を行っているのか興味深いところです。
報道ステーション 支持率-3.1 不支持率-2.3
報道ステーションの世論調査結果は、支持率は他社平均に比べて3.1%低く、不支持率も2.3%低いという時事通信と類似した結果になっています。2016年4月から調査方法を[RDD方式]を採用しており、その前までは調査人による聞き取り調査であったようです。なお、RDD方式を採用してから後は明らかに不支持率が高くなったと言えます。
JNN 支持率+6.5 不支持率+6.4
JNNの世論調査結果は、支持率が平均よりも6.5%高く、不支持率も6.4%高いという他社とは一線を画した結果になっています。これは、回答する選択肢が「非常に支持できる」「ある程度支持できる」「あまり支持できない」「全く支持できない」(答えない・わからない)の5つで構成されていることに影響を受けていると推察されます。このような多様な選択肢の場合、他社よりも棄権者が少なくなり、支持率も不支持率も高くなるとことが考えられます。なお、政権親和度は-1.07と低く、反政権的な結果となっています。
FNN・産経新聞 支持率+0.9 不支持率+0.8
産経新聞は、支持率・不支持率ともに僅かに高いものの、政権親和度は最も0に近く、バランスが取れた数字であると言えます。産経新聞はときに政権寄りの新聞と評価されることがありますが、世論調査結果自体はニュートラルであると言えます。
以上、報道各社の世論調査結果を個別に分析した結果をまとめると次の通りです。
(1) 有効回答数が概ね高いにも拘らず明らかな系統的偏向が認定できる
(2) 質問の聞き取り方法の詳細が不明なため、結果が偏向する理由を十分に分析できない
このような状況下において、マスメディアが「支持率が30%を割ったら政権は危険水域に入る」という曖昧な帰納原理を振りかざして大衆をセンセーショナルに心理操作することは極めて不誠実な報道であると考える次第です。
内閣支持率の推移の時系列解析
ここでは、内閣支持率の定量的な分析について示したいと思いますが、少しばかり専門的な内容になりますので、プロセスを信頼していただける方は、解析の方法を飛ばして結論のみお読みいただければと思います。
通常、物事の時間変動を分析するにあたっては【時系列解析 time series analysis】という方法が用いられますが、これまで内閣支持率が詳細かつ定量的に時系列解析された例はほとんど皆無であると言えます。それは支持率が各社バラバラな時間間隔で行われることと同時に、月に一度程度の調査データでは得られた解析結果の統計的信頼性が低いことによるものと考えられます。時系列解析を行うにあたっては、等時間間隔である程度大きなデータサイズ(データの数)のデータが必要なのです。このようなデータ系列を得るため、私は次のような手順を考えました。
(1) 報道各社の生データを平均支持率で除算することで、データの偏向を除去する
(2) 全てのデータを週間隔に割り当てる(世論調査は基本的に週末に行われるので比較的容易にアロケイトできます)
(3) 一つの週に複数のデータが存在する場合には、それらを平均して一つの値にする
(4) データが欠如する週については前後のデータを線形補間して値を得る。
このような手順により次の図に示すようなデータ系列を得ました。
このデータ系列は、フラクチュエーションの程度も生データに近く、十分に統計的な意義があるものと考えます。このデータ系列をオープンソースのR言語を用いて時系列解析し、内閣支持率の時間変動の特徴を分析しました。なお、解析を実施するパラメータとしては、メインのパラメータである支持率の時系列に加えて、過去16週にわたる標準偏差(データのバラツキ度合)の時系列をサブパラメータとして加えました。以下、解析結果を示したいと思います。
まず支持率と支持率の差分(1期前との差)の【自己相関 auto-correlation】を示します。ここで、自己相関とは、ある時点のデータの値とそれより1期前、2期前、・・・のデータとどれだけ類似しているかを表したものです。類似していれば類似しているほど1に近くなり、全然類似していないと0、符号が逆(マイナス)で絶対値が類似していれば類似しているほど-1に近くなります。横軸はラグという量で、1期前、2期前、・・・を意味します。
まず、支持率の自己相関は1期前と約0.9似ていて2期前とは0.8似ていると言ったように時間が離れるにしたがってだんだん似た値でなくなってきます。これは一般的な時系列の特徴です。支持率の差分については1期前のラグで概ね相関性が低くなります。これは何を意味しているかと言えば、一寸先は闇ということであり、時系列の形から次の変動がどうなるかを予測することは困難であることを意味します。
次の図は標準偏差と標準偏差の差分(1期前との差)の自己相関を示したものです。
これを見ると、標準偏差も標準偏差の差分も10期から13期あたりに負のピークがあることがわかります。これが何も意味しているかと言えば、標準偏差は20~26週(10~13の倍)の周期で推移することを示しています。ちなみに26週と言えば約半年にあたります。これは通常国会と臨時国会の会期に対応している可能性があり、確かに時系列を見る限り、標準偏差の時系列に概ね半年に一度の頻度で明瞭なピークが存在しています。
そして次の図は、支持率と標準偏差の【相互相関 cross-correlation】を示したものです。相互相関とは、この場合、支持率と標準偏差との相関性をラグ毎に求めたものです。
この図を見ると逆相関のピークがラグ0付近にあり、差分との差については2週前にピークが出ています。このことが何を意味しているかと言えば次の通りです。
(1) 支持率が底値となる時期は標準偏差がピークとなる時期と一致する
(2) 支持率の差分が底値となる時期は標準偏差の差分がピークとなる2週間後である
図を見ると、確かに明瞭な標準偏差のピークの時期と不明瞭な支持率の底値の時期が概ね一致しています。
そして、標準偏差の差分のピークに着目していれば、支持率の底値時期を事前に特定できるということです。もし、今週の安倍内閣の平均支持率(偏向除去後)が31以上であれば、先週の値が標準偏差の差分値のピークとなり、来週あたりが支持率の底値になる可能性があるということです。
ちなみにヴォラティリティも計算してみましたが、こちらについては、支持率との明瞭な相関性は認められませんでした。
マスメディアの暴走
[共同通信の世論調査結果]で指摘されていますが、支持しない理由で最も多いのは「首相が信頼できない」の51.6%、「加計学園問題に関する政府側の説明に納得できない」は77.8%、首相の「腹心の友」が理事長を務める加計学園による学部新設を「問題だと思う」は62.4%にのぼります。
ここで、国民が気を付けなければならないのは、これらの判断をする証拠は現在のところなく、すべてはマスメディアが造った印象で語られていることです。
安倍首相が悪魔の証明に答えないことを、マスメディアは「首相は説明していない」とし、これがいつの間にか「説明責任を果たしていない」「疑念がある」に進化し、その結果として「首相を信頼できない」という評価がなされることになっています。このような国民への徹底した情報操作・心理操作・倫理操作により造られた政権危機は憂慮すべき重大な問題です。
内閣支持率が具体的に変動を始めたのは6月半ばであり、時期を同じくして朝日新聞が連日にわたり[社説]で安倍政権批判を繰り返す倒閣キャンペインを行っています。
一方、テレビはテレビで伊藤惇夫氏のような政局巷談家が「問題は印象の部分だ」と安倍首相に対する印象報道を肯定するというとんでもない放送を行っています。
[キャプチャー]
造られた内閣支持率の低下を御旗として、今まさにマスメディアが暴走し、民主主義を破壊しようとしています。