50周年記念「スタートレック」の異星人キャラのモデルを推察する | マスメディア報道のメソドロジー

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オバマ大統領 スタートレック



今年で最初の放映から50周年を迎えたSFシリーズ「スタートレック」ですが、最近も新作映画がリリースされてその世界観をちゃっかり愉しませていただきました(笑)。youtubeには、50周年を記念した多くのトリビュート映像がアップされています。



さて、このシリーズの最大の魅力の一つは、長期間にわたって形成されてきた重厚な世界観にあると思います。その世界観の中核となっているのが、個性あふれる様々な異星人の存在ですが、この異星人のキャラクターは、例えば、クリンゴンはソヴィエト連邦、カーデシアはナツィ・ドイツ、惑星連邦はNATOといったような感じで、現実の世界各国の政策・国民性・文化がモデルになっているいう議論が世界各国のファンの間で古くから繰り広げられています。

このモデリングが、シリーズの制作者であるジーン・ロッデンベリーによって意識的に行われてきたのか、無意識なうちにインスパイアされたかは謎ですが、私が推察するに、米国人スタッフが描いていた異星人のキャラクターが無意識にのうちに世界各国のイメージと重なり、途中からはシリーズの世界観の重厚感を確保するため、意識的に各国のイメージをキャラクターに注入していったものと思います。この現実世界の時空間の特徴がフラクタルであることを考えれば、「地球でグローバルに生じている事象は宇宙でユニヴァーサルに生じている事象のアナロジーである」と考えるのは合理的であり、このことが私のようなシリーズのファンの心をワシヅカミにしていると思います(笑)。

ここで注意すべき点は、この人気シリーズの世界観は、当然のことながら、制作国である米合衆国市民の世界観に近いものであると考えられることです。これは制作者が合衆国市民であると同時に、シリーズの一次的なクライアントも合衆国市民であり、その世界観を大きく逸脱することなく、むしろ共感が得られるように、制作されているものと考えられるからです。したがって、スタートレックの世界観を読み解くことによって、合衆国市民がどのような世界観を持っているのかを垣間見ることができるのではと思います。

もう一つ注意すべき点は、一つの異星人にはいくつかの国の性向が複合的に注入されていると考えられることです。これは異星人に対する国のイメージが個人の観点によって異なることからも明らかです。

以上を踏まえて、この記事ではスタートレックの代表的な異星人キャラと国との類似性について個々に概括的な分析を行い、1966年から50年にわたる合衆国市民の世界観について推察してみたいと思います。


地球人

スタートレック

まずスタートレックで描かれる地球人は、地球人というよりも、東洋人や黒人やヒスパニックや欧州人と言ったマイノリティを含めた合衆国市民であると言えます。これは、「キャプテンウルトラ」の地球人が日本人ばかりであったり、「ウルトラマン」の怪獣の出現場所が日本ばかりであるのと同じことで、テレビシリーズの宿命と言えます(笑)。

東洋人スールー(ミスター加藤)ロシア人チェホフは米国のマイノリティの典型です。ジャン=リュック・ピカード艦長もフランス人ですが、マインドは合衆国市民であると言えます。

地球人が要職についている惑星連邦の哲学には「艦隊の誓い」と呼ばれる第1級優先事項がありますが、これは「公私にかかわらず、他文明の社会的発展に対して干渉することおよび影響を与えることを禁ずる」というエコロジカルなものです。この「艦隊の誓い」がシリーズで頻出するようになったのは、ピカード艦長時代の1990年代からであり、これは米国におけるポリティカル・コレクトネスの台頭の時期と一致するものです。

私は、スタートレックは米国で良い意味でのポリティカル・コレクトネスが拡がる契機になったと思います。異星人との交流における多様性を重んじるスタンスはもとより、DS9の黒人司令官ベンジャミン・シスコやヴォイジャーの女性艦長キャスリン・ジェインウェイの登場は、後のバラク・オバマ大統領ヒラリー・クリントン氏の存在を連想させるものでした。このように、スタートレックは、米国の公正な社会づくりに大きく貢献したと思われますが、残念なことにその後の米国で起こったことはポリティカル・コレクトネスの行き過ぎです。そういった意味では、ポリティカル・コレクトネスを広めたことは「艦隊の誓い」違反でしたね(笑)。

なお、現在のスタートレックの映画シリーズでは、掟破りのジェームズ・T・カークがリヴァイヴァルで大活劇を見せてくれています。これはドナルド・トランプ現象に通じるところがあり、興味深いところです。


惑星連邦

スタートレック

先述した艦隊の誓いを持つ宇宙連合が、地球人・アンドリア人・テラライト人、ヴァルカン人を中心に組織されている惑星連邦です。これは明らかにNATOの集団安全保障にインスパイアされていると考えられます。ただし、アンドリア人は英国・カナダなど米国に対して上から目線で接してくる存在、テラライト人はメキシコなどの米国が上から目線で接する相手のようなイメージがあります。次項に示すヴァルカン人はミステリアスな存在であると言えます。

それにしても、アンドリア人とテラライト人の風貌は、まるでゆるキャラですね(笑)


ヴァルカン・ロミュラン

スタートレック


スポックで有名なヴァルカン人は、直毛の黒髪、とがった耳、つりあがった眉毛、スリムなどのエキゾティックな身体的特徴を持っていて、東洋人を連想させます。長寿な種族で宗教的な瞑想を重んじ、論理的で自制的なスピリットを持っています。東洋の大国といえば日本中国を挙げることができますが、その自制的な精神性を考えれば、ヴァルカン人のキャラクターは日本人を潜在的に意識して創られたものと考えられます。1966年当時の米国との同盟関係の強さから考えてもスポックのモデルが日本人であると考えることに無理はなく、このことは世界的にもよく言われていることです。まぁ、実際には日本人は、けっしてスポックのように論理的ではないですけどね(笑)。その他にヴァルカンはアジアの仏教国との類似性が指摘されていて、ティベットタイが挙げられることもあります。なお、ヴァルカンという名称自体はローマ神話にでてくる火山の神Vulcanをモチーフにしたという説があります。

ちなみに、スポックはヴァルカン人と地球人のハーフです。生物学的に考えれば、異なる進化を遂げてきたヴァルカン人と地球人の間に子供が誕生するとはけっして思えませんが、まぁ23世紀からの話なので良しとするかって感じです(笑)。

一方、ヴァルカン人と同一種族のロミュラン人は、暴力的で効率重視な性向を持っていて、しばしば中国をモデルとしていると指摘されています。ロミュランという名称自体は共和政ローマを意識したものとされていて政治体制に多くの一致点が見られることが知られています。


クリンゴン

スタートレック


スタートレックにおける好戦的で野蛮なヒールキャラとして誕生したクリンゴン人ですが、惑星連邦と和平協定が結ばれたピカードの時代になると、艦隊士官ウォーフの存在により、名誉を重んじる勇猛な種族として描かれるようになりました。

クリンゴンは、「(父親名)の息子、(自分名)」と名乗りますが、これは「ラーディンの子孫、ウサマ」「モハメッドの息子、マハティール」といったようなムスリム式のネーミングによるものであり、ヒールに対してこの表現を使ったのは、合衆国市民がムスリムに対して持っていた好戦的という偏見イメージを反映したものと考えられます。

そのクリンゴンですが、一般的に考えられているモデルはムスリムではなく、1980年代まで冷戦における米国の敵であったソヴィエト連邦でした。そして現実社会の冷戦が終結した1990年代になると、スタートレックの世界でも惑星連邦とクリンゴンに和平協定が結ばれることになり(23世紀末)、クリンゴン=ソヴィエト連邦・ロシア説をさらに強固にしました。

ところがその後、状況がまた変わりました。惑星連邦の仲間になったクリンゴンが非常に精神的に高潔に描かれるようになると、クリンゴン人のキャラ作りは、ロシア人ではなく日本人にインスパイアされているという主張が散見されるようになったのです。「クリンゴン人は戦争で死ぬことが名誉である」という価値観がシリーズで紹介されると、その精神は日本の武士道に類似していると評価され、かつての敵であっても信じあうことができるという認識が共有されました。このことは、現在のオバマ大統領と安倍首相の広島-真珠湾の相互訪問に対する許容の心を無意識のうちに醸成してきた可能性があります。

さらにクリンゴンの「死ぬには良い日だ」というフレーズは、有名なアメリカン・インディアンの言葉であり、これもかつての敵であるマイノリティに対する尊崇の念をクリンゴンの存在に託してシリーズに取り込んだ可能性があります。


カーデシア・ドミニオン

スタートレック

クリンゴンのように名誉で行動する種族とは異なり、厳格に規律を守り自分の価値観のために冷酷に行動する軍事国家のカーデシアに対しては、ナツィ・ドイツに代表されるファシズムを連想することが圧倒的に多いようです。規律が好きな日本人が、けっしてカーデシア人に認定されないところが意外で興味深いところです。カーデシアに支配されていたベイジョー人はもっぱらユダヤ人でしょう。

惑星連合に対峙するドミニオンについては、連合国と対峙したナツィ・ドイツ、NATOに対峙したソヴィエト連邦、現代の中国といった強大な勢力に類似しているという向きがあります。多くの国と連合しても身の危険を感じる大きな敵ということイメージが強いようです。


ボーグ

スタートレック

ボーグは、特定の種族ではなく、シンギュラリティを手にした人工知能といえますが、中国がボーグとなる日も遠くないのではと思うのが私の私見です。内なる世界に入り込んで個人を同化すると同時にそのプレゼンスを消してしまう全体主義は、今後の世界の脅威となるものと考えられます。このような同化モデルは、北朝鮮ISISにも共通するものです。

We are Borg. You will be assimilated. Resistance is futile. Resistance is irrelevant.


フェレンギ

スタートレック

ウソツキで金の亡者のフェレンギ人のモデルとして、日本人は日本人をイメージするかもしれませんが、実際に世界でイメージされているのは米国の金融業界を牛耳っているユダヤ人や産油国のアラブ人であり、日本人をイメージする意見はほとんどありません。幸か不幸か、日本人はエコノミックアニマルで海外で水兵のように金を使うという80年代後半~90年代前半のステレオタイプはもはや存在しないと言えます。トランプ氏だけはまだ憶えているかもしれませんけどね(笑)。



以上、スタートレックの主要な異星人キャラにどの国を連想するかということについて、私見を含めて分析してきました。

結論としては、時代とともに世界の情勢が変化するに伴って異星人キャラに対するイメージも変化していくということです。そのような中で、スタートレックを介して見られる合衆国市民の日本に対するイメージについては非常に良好であり、長きにわたる日本の友好努力が実っている一つのあらわれであるかもしれません。

安倍首相オバマ大統領広島・真珠湾の相互訪問は、日米関係の信頼をさらに深める歴史的な一歩になることを期待するところです。ちなみにオバマ米大統領はスタートレックの大ファンで、ちょっと油断していると、中指と薬指を離すヴァルカン式の挨拶をしますので注意が必要です(笑)。

オバマ大統領



<オマケ>

スタートレック50周年の今年、Star Trek Next Generation の全エピソード入りのブルーレイが20000円を切ったので、いわゆる「清水買い」してしまいました(笑)。本当に満足しています。

スタートレック

同じくオリジナルシリーズの全エピソード入りのブルーレイについては、まだ25000円超なので購入を控えています。こういうのが、いわゆる「デフレ・マインド」なんですよね(笑)