ひとは時代のなかで生きている。

「大正の歌麿」と呼ばれた夢二が、

「白衣の骸骨」の絵を描いている。

 

竹久夢二「白衣の骸骨」

夢二(1884ー1934)は早稲田実業学校に籍

(明治35年ー38年)をおき、人力車の車夫、

新聞配達をし、アルバイトで自活していた。

 

当時彼が私淑していた安部磯雄(早稲田大学

教授)は、夢二の生涯に関係深いキリスト教、

社会主義、野球(部長)の三つを有していた。

夢二は神戸中学時代から野球ファンで、安部

は、明治34(1901)年日本初の社会民主党

を片山潜、幸徳秋水、木下尚江らと結成する。

 

当時の夢二について荒畑寒村の「寒村自伝」

によると、夢二は「往年の社会主義者であっ

た」というと人は驚くが、彼は「平民社の常

連のひとり」で、一緒に自炊する学友三人は

「水とパンだけで過ご」し、社会主義実現の

議論を戦わしていたという。

 

夢二は、当時白馬会の洋画研究に通い、ハガ

キに水彩で絵を描き、絵葉書店に御して、生

活費に充てていたという。

日露戦争の最中、夢二の絵画(コマ絵)が「

直言」に掲載される。(明治38年6月18日発

行)同月6月20日「中学世界」にコマ絵「筒井

筒」が一等入選し、初めて夢二の名が世に出る。

「直言」は友人荒畑寒村の斡旋で、社会主義運

動の機関紙に、載せた絵は、赤十字マークのつ

いた白衣の骸骨に身を寄せて若い女が泣いてい

る反戦的な絵で、日露戦争のときに社会主義運

動が始まっていた。

 

 

 

繪葉書世界「滑稽新聞」

明治40(1907)年1月夢二は岸たまきと結婚

する。

同年2月・3月「日刊平民新聞」に夢二の風刺的

コマ絵が掲載され、「幽冥路」の名で十七字詩

の連作を出し評判となる。

夢二は雑誌「滑稽新聞」の増刊号「繪葉書世界」

(明治41年6月5日発行)に絵師のひとりとして、

繪を投稿している。

雑誌「滑稽新聞」はは反骨のジャーナリスト、

宮武骸骨(1867-1955)が発行。

編集方針は、刊癪(怒り)を縦糸、色気を横糸に

し、過激にして愛嬌をモットーに8年にわたり、

大阪で人気を呼び173号で廃刊(1901-1908)

となる。

 

 

竹久夢二画(滑稽新聞社発行)

 

夢二「絵葉書」幸徳秋水

夢二は、同級生の岡栄次郎を通じて、幸徳秋水

や堺利彦の社会主義運動の結社「平民社」を知

る。

明治40年1月「日刊平民新聞」が発刊され、3

ヵ月後の4月に廃刊されるまで夢二は挿絵32図、

川柳など174首を紙面に協力する。

夢二は日刊平民新聞が廃刊された同年夏に幸徳

秋水に暑中見舞いの葉書を送る。

 

(表)

府下大久保百人町 幸徳秋水様

谷中初音町四丁目百十  夢二

(裏)

繪をうりに いでゆく市の 暑さ哉

御起居いかゞに 御座候や  夢 

 

 

幸徳秋水と夢二のふたりを物語るひとコマ。

 

幸徳秋水「大逆事件」

幸徳秋水、堺利彦によって明治36年結成され

た平民社は、日露戦争非戦の主張で官憲に目

をつけられ、明治43(1910)年3月に解散

され、同年6月天皇暗殺を密議したという理

由で、幸徳秋水、菅野スガら5名が逮捕され、

検挙の網は全国に広まり、社会主義者、無政

府主義者と目された数百名が逮捕される。

判決の結果、24名が有罪・死刑(12名)と

なり、幸徳秋水ら11人が刑死、翌日菅野スガ

(29歳)の刑が執行される。(明治44年1月26日)

 

竹久夢二(お島「宵待草」)

夢二は、たまきと結婚した翌年に長男誕生し、

その後、たまきと協議離婚(明治42年)する。

同年、たまきを伴て富士山を登山、明治42年

8月紀行文「富士へ」で詳細に記す。

同年8月たまきとともに、銚子町海鹿島に一夏

を過ごす。このとき、避暑にきていたお島(長

谷川賢)との恋が、のちに宵待草の歌となる。

「宵待草」の詩は、竹久夢二30歳のとき、大正

2(1913)年1月発行の雑誌「どんたく」で発

表される。

待てど暮らせど来ぬ人を

宵待ち草のやるせなさ

今宵は月も出ぬさうな

 

宵待草という植物はなく、ツキミソウ属の待宵

草を指すという。

この詩以後、夢二の創作した言葉として定着す

る。

夢二の宵待草の詩に多忠亮は大正7年に曲をつ

け、全国に流行する。

色紙のお島の絵は、大米谷旅館(富士山須走口)

で大正9年夏に夢二が描く。

 

 

 

夢二の「宵待草」

 

 

 

 

 

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