『江戸生艶気樺焼』

「江戸生艶気樺焼」は山東京伝作・画。

江戸時代の大人向けの漫画。

 

劇のなかでの色男を見てうらやまし

く思い、浮名の立つ主人公になるな

ら、命がけで仕掛けてみた男のはな

し。

3巻内の下巻。

天明5(1787)年刊行の黄表紙。

 

心中

百万両分限(資産家)の仇木屋の一

人息子の艶二郎。

七十五日の勘当の日ぎりが切れ、い

まだ浮気(うわき)をし足りねば、

親類中のとりなしにて、二十日の日

のべをねがひ、どふしても心中ほど

浮気なものあるまいと。

 

 

 

 

浮名

てまえは命をすてるきなれど。

それでも浮名(うきな)が不承知

ゆへ、うそ心中のつもりにて、さ

きへ近所の喜之助と志庵をやって

おき、南無阿弥陀仏といふを合図

にとめさせる注文にて、まづ浮名

を千五百両にて身請けし心中の道

具を買い集める。

浮名は、たとへうそ心中にてもと

んだ不承知なりしが、首尾よくつ

とめたあとでは好いた男と添わせ

てやろうと。

 

芝居

由良之助が言ふようなせりふにて、

よふ〱得心あせ、此秋狂言には、艶

二郎が無利息にて金元(出資者)を

するやくそくにて、座元(興行主)

をたのみ、桜田にいゝつけて、此こ

とを浄瑠璃につくらせ、立方は門之

助と路考にて、舞台でさせるつもり、

はたき(失敗し)そうな芝居なり。

 

駆け落ち

もとより、すなおに身請けしては

色男でないと、れんじをこはして

梯子をかけ、二階から身請する。

内緒では

「どふで身請けなされた女郎ゆへ、

お心まかせになさるがいゝが、れ

んじのつくろ代は二百両でまけて

あげませう」

と欲心をぞと、申ける。

若い者共はご祝儀ちゃくぼくして逃

げたあとで、ほう〲へ言いふらせと

の言いつけ也。

艶二郎

「二かいから目薬とはきいたが、身

請とはこれがはじめてじゃ」

若い者

「おあぶなふござります。おしづか

におにげなさりませ」

「おいらん、ごきげんよふおかけお

ちなされまし」

 

 

 

ここぞよよき最後の場と。

はく置きの脇差ぬいて、すでにこふ

よよと見へ、南無阿弥陀仏といふを

合図に、いなむらのかげより、黒装

束の泥棒ふたりあらわれいで、ふた

りをまっぱだかにしてはぎとる。

 

 

 

 

泥棒

「わいらは、どふで死ぬものだから、

おいらが、かいしゃくしてやろう」

艶二郎

「これ〱はやまるまい。

われ〱は死ぬための心中ではない。

命はお助け〱。もうこれにこりぬ

ことはござりません」

泥棒

「此以後こんな思い付きは、せま

いか〱」

浮名

「どふで、こなことゝおもいんした」

艶二郎

「おれはほんの粋狂でしたことだから

是非がないが、そちはさぞ寒かろう。

世間の道行は着物を着て最後の場へ

行が、こっちのは裸で家へ道行とは、

大きなうらはらだ。

緋ちりめんのふんどしが、ここでは

へたもおかしい〱」

浮名

「ほんのまきぞへで、なんぎさ」

 

 

 

 

艶二郎、家へ浮名を連れて帰る。

親と番頭が立ちいで、恐ろしき泥

棒とまで身をやつせしわれ〱が工

夫の狂言、以後きっとたしみおれ。

 

艶二郎ははじめて世の中をあきら

め、浮名も男のわるいも不承して

夫婦に。

艶二郎

「ここで焼餅をやかれては大難儀

だから、妾もどこぞへかたつけま

せふ」

浮名

「わたしはおおきにかぜをひきま

した」

 

 

 

 

 

 

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