江戸時代の大人向け漫画。

「色男」と世間で呼ばれる男になりたいと

こころみてみるが。どうもこしらえごとだと

あいてにされずにいる。滑稽な江戸生まれ

の艶気(うわき)な男の樺焼(かばやき)物語。

天明5(1787)年の作品。山東京伝は、北尾

政寅の名で描いた絵に書き入れを書く。

3巻ある内の中巻。

 

「江戸生艶気樺焼」(「中巻」)

(「焼餅」)

艶二郎、女郎買いにでても家へ帰って焼餅

を焼く者がなければ、張り合いがないと、

肝いり(斡旋屋)を頼み、焼餅さへやけば器量

は望まぬといふ注文にて、四十ちかい女を、

仕度が金二百両にて妾をかかえる。

 

 

艶二郎、五六日ぶりにて家へ帰りければ、

待ちうけたる妾、ここぞ奉公のしどころと、

かねて復しておゐた存分をやきかける。

妾「ほんに男といふものは、なぜそんなに

気づよいもんだねへ。それほどにほれられ

るがいやなら、そんないゝ男にうまれつかね

へがいいのさ。また女郎も女郎だ。あい、そ

うなすったがいゝのさと。

艶二郎「はづかしこつたが、生まれてからはじ

めて、焼餅をやかれてみる。どうもいへね心

もちだ。もちつとやいてくれたら、ねだった八丈と

縞縮緬を買ってやらふ。ももちつとたのむ〱」

 

(「勘当」)

 

 

艶二郎、世間のうわさするを聞くに、金持ちゆへ、

みな欲でする、といふことを聞き、急に金持ちが

いやになり、どうふぞ勘当をうけたくおもひ、

両親に願いけれども、ひとり息子のことゆへ、

決してならねども、よふよふ母のとりなしにて、

日限りがきㇾると、早々内へ引き取るとの事也。

艶二郎「願いのとふり御勘当とや。ありがたや〱。

四百四病の病より、金持ちほどつらいものはない

のさ。かわい男はなぜ金持ちじゃから」

薬研堀の名ある芸者七八人、艶二郎に雇われ、

勘当のゆりるようふにと、浅草の観音へ裸足

まいりをする。なるほど、裸足まいりといふやつが、

大かたは、浮気なもの也。芸者

「ゑゝかげんいなぐつて、はやくしまわをねへ」

「十どまいりぐらいでいゝのさ」

 

 

(「樺焼」)

黄表紙「江戸生艶気樺焼」の題「樺焼(かばやき)」。

四方赤良こと太田南畝(蜀山人)の狂歌。

あなうなぎ いづくの山の いもとせを

  さかれてのちに 身をこがすとは

この狂歌は諺「山の芋化しても鰻になる」に

懸けて、蒲焼(かばやき)にされながらも身を

焦がすという歌を詠む。京伝の題は、身を女

にこがす色男を蒲焼に懸けているのだろうか。

 

 

「江戸生艶気樺焼」(下巻)につづく。

艶二郎の色男ぶりに、これにこたえ、

またさめた女の言葉が愉快だ。

 

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