クルージングは籠の鳥④
フォーマル夕食には、ドレスコードがあった。
日本の結婚式で着るレベルの服装での参加と、案内書にはあったが、日本でカクテルドレスを着る事はない。
もちろんドレスなど持っていない。娘宅に行って、何着かあるドレスの中で気に入ったのを2着借りて、持って来ていた。
ドレスはノースリーブで、肩や背中が丸見えになる。
船内の部屋は、クーラーがガンガンと効いている。
クーラーが苦手な私の家では、クーラーをおいていない。
真夏でも玄関ドアとべランドを開けることで風が通り、何とかしのげる。扇風機はあるが、それをかけるのは真昼の数時間か真夏日でも夜間の数日だけだ。
世間では、クールビズと言いながらも、5月早々には電車やビルの中でクーラーをかける。
今年も最初の電車内のクーラーで、下半身が冷えてしまい下痢をしてしまった。
クーラーには、大変神経質になる。
夕食の船内レストランもガンガン冷えており、それを承知でドレスを着ないといけない。
旅行前からの情報で、寒いと知っていたので友人からはドレスに合うショールを、何枚も借りて持参していた。
ドレスを着た姿は、やはり自分ではなかった。
露出している首や肩に、センスのある姉がショールを巻いていった。薄めのショールだったので、もう一枚体に巻き付けた。
出来上がった姿は、人形に服を着せている感じで、ドレスに着せられているようだった。華やかな姿の気分は、ピエロだった。
ドレスコードのあるフォーマル夕食は、特別なものだろうと、推測していた。
だがレストランはいつもの通りだった。
狭苦しくテーブルが並べてあり、特別の飾りつけもなかった。
私たちのテーブル席の周りは、日本人だらけで、それなりにオシャレをしているが、映画とかテレビで見るようなカクテルドレスとそれに似合った紳士はいなかった。
食事も特別でなく、やはり美味しくない肉やメニューで、尚更気分がダウンした。
船内スタッフのほとんどは、アジア系(マレーシア・インドなど)の人々だった。
姉の話ではどの船でも同じで、出稼ぎの人が働いていると言う。
白人はクルーのみで、白い船員服の人はほとんど見かけなかった。
アジア系のスタッフもウェイターの制服で頑張って働いているが、所詮、まだマナーは行き届いてはいなく、ヨーロッパのそれなりのレストランの洗練さは、なかった。
朝の時間に、他の場所で同じスタッフを見かけたが、その時は違う制服を着ていた。
夜のレストランの仕事を終えて、朝の仕事となると睡眠時間は少ない。
笑顔を向けてくれたが、やはり疲れが身体ににじんでいた。
レストランに船長が挨拶に来るのかとも思ったが、それもなく、通常の食事だった。
クーラーでやはり寒く、首まわりから落ちてきたショ―ルを持ち上げたり、肩よりずり落ちた部分をあげたりと余分な神経を、始終使うことで、全く楽しむと言うことから、離れてしまった。
姉や友人たちから、華やかなフォーマル夕食の様子を聞いていたので、期待した分、ガッカリも大きかった。
夕食後には、ショーの予約をしており、そのままの姿で行くように、現地ガイドには言われていたが、その気分でもなくサッサと部屋に戻り、普通の服装に着替えてしまった。
初日の夜は、16時間のフライトと時差ボケのため、夕食後には早々に寝てしまった。
楽しみにしていたショーは、お預けの形になっていた。
時間通りにホールに行くと、ほとんど客が入っていなかった。
嫌な予感の中、幕が開くころにはほぼ満席に近かったが、空席もまだあった。
姉の話では、他の船では超満員で階段の所に座ってみている客もいたとの事だった。
明るいスポットライトに当たりながら、このショ―の責任者?座長?プロデューサー?が挨拶をした。
わざとらしいハイテンションの会話は、宙に浮いていた。
気分はまだ、下降線のままだった。
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