松さんのブログの新聞記事を読んだ感想です。 | 【ステージ4:治療6年目突入】腎臓がんと闘うスロッターkazuのブログ

【ステージ4:治療6年目突入】腎臓がんと闘うスロッターkazuのブログ

2017年 50歳で腎臓がん&肺転移を告知されました(追記:51歳で脳転移再発、55歳で骨髄転移・骨転移を再々発)
<「癌になることは不幸ではない!」製薬企業で長年医薬品開発を生業とした経験から、前向きに治療に取り組み、日々を幸せに過ごすことを伝えるブログです>

皆さん、こんばんは!!

kazuです。

 

松さんのアップした新聞記事のブログを読んで、医薬業界に携わる立場としてちょっと思うことがあったので(おかあさんも、くつさんのコメントでちょっと不安なことを書いていたこともあり)、この新聞記事を読んだ感想を書きます。

 

ちなみに、松さんのブログを批判するという意図ではないので、決して誤解なさらない様にして下さい(#^^#)

 

私は医薬品の開発に携わったことだけでなく、(あまり細かいことは書けませんが)仕事で医療行政に関する教育も行っている関係から、いずれの内情も良く知っています。

 

正直、この新聞記事を読んだ感想は、

「嘘は書いていないが、読者を引き付けるために敢えて副作用のセンセーショナルなことを書き、また都合の悪い話を敢えて書いていない、ちょっと偏った記事」

というのが正直な感想です。

                                              

あまり難しい話をしても皆さん分からないと思うので敢えて細かいことは書きませんが、私から見ると3点大きな問題があります。

(但しそれらを覆す様な良いことを実は1点書いています。それは最後に書きます)

 

まず問題の1点目は、

「副作用の話は、何を今更分かりきったことを書いているの?」という点。

まあ嘘は書いていないのですが、医薬に携わる人なら既に知っている既知の話。

 

そもそも論で言うと、免疫細胞のブレーキを外す様な薬を使うと正常な細胞も攻撃してしまい、予想出来ない副作用が出るかも知れないから、本当に人間に使って大丈夫なの?という懸念は開発当初からずっとありました。

 

一方で癌を完治させることが出来る画期的な薬ということもあって開発が進んだのですが、免疫チェックポイント阻害剤の副作用はかなり注視しなければならないという認識は医薬関係者なら常識的な考えなので、タグリッソの副作用情報を知った時も「まあ、当然そういうことも有るだろうな」という予想の範疇の話でした。

 

まあ、これらの話は事実を書いているだけなので、知らない人には為になる話だと思います。

 

問題は次の2点目。

記事の最後に、「より安心して使える薬にするためには、企業や国の積極的な関与が求められる」と書いてありますが、正直間違ったことを書いています。

(多分、分かった上で意図的に嘘にならない様な言葉を選んで書いていると思います)

 

実は医薬業界の世界統一ルールとしてGVP省令(※)なる法律があり、要は薬の市販後の安全性の調査を製薬会が行わなければならないことが日本だけで無く、世界中で共通した法律として義務付けられています。

 

※「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令」

  目的は、安全管理情報の収集、検討及びその結果に基づく必要な措置を適正に実施すること。

 

そしてこの法律に基づき、患者の副作用(有害事象)情報が病院を通じて製薬会社に集められ、日常的に副作用の情報が更新され、最終的には必要に応じて添付文書(薬の取り扱い説明書)に反映されています

 

正直、オプジーボやキイトルーダ、その他分子標的薬も含めてしょっちゅう添付文書の更新が行われていますが、いちいちそんな専門的なことブログに書いても一般の患者さんには興味の無い話だと思うので、私もいちいちブログに書いていません。

(情報を知らなければいけないのは、あくまでも患者では無く医者なので)

 

当然、(主治医から細かく言われていないとは思いますが)松さんの治験後の経過についても調査対象に入っているし、そもそも今回のキイトルーダ&インライタも(恐らく)早期承認申請対象で、承認後も松さんや私の様な治験患者のその後の動向を調査・報告する義務があるので、きっちり調べているはずです。

 

先の新聞記事では、この様な医療行政の常識的な話に全く触れていません。

(無知で知らないのか、知っていても書くと記事がつまらなくなるので敢えて書いていないのかどちらかは知りませんが・・・多分後者だと思います。もし前者なら、医療記事を書く新聞記者としては失格です(笑))

 

それと、主治医が松さんに発疹などの影響についての副作用の話をしないのは、副作用の発生が低く相対的なリスク重大度が低いため敢えて説明する必要が無いと判断しているのだと思います。

(私も仕事柄個的に情報は入手していますが、主治医からは直接聞いたことはありません)

 

例えば風邪薬だって、副作用で死ぬリスクはあります。

でも、現実に風邪薬を処方する時に30分かけて死ぬ副作用のリスクを延々と説明する医師は現実的にいません。

 

また、30分かけて説明されて「何と素晴らしい医者だ」と思う患者はいるでしょうか・・・

恐らく(というか100%の患者は)「くだらない無駄な話をしやがって!!」と皆怒ると思います。

 

癌の副作用も基本同じです。

1から10まで、何から何まで患者に話す必要はありません。

 

本当に必要なのは、(風邪薬で稀にある重篤なアレルギー反応の様な場合もですが)医師がその様な副作用をきちんと認識していて、稀な副作用でもきちんと対処出来ることが重要です!!!

 

全ての薬には添付文書がありますが一般の方が読んでも理解できないし、また医師が患者に1時間かけて理解するように説明したところで、本当にそれに意味があるのか?ということです。

 

最後に、3点目の問題として、この記事の一番の欠陥は「重い発疹が出た9人の患者がいる」と書かれていますが、投与された全体の母集団の人数が(意図的に)書かれていないこと!

 

100人中9人なら確かに大問題だし、投与する人全てに予め副作用のデータを伝える必要があると思いますが、仮に10万人の内の9人ならどうでしょうか?

 

副作用の話をいちいち10万人に説明するよりも、医師がきちんと副作用の状況を把握して、患者の状況を見て副作用が出たら速やかに対処出来るようにする方が現実的な話です。

 

先の10万人の例は正確な数値では無いですが、恐らくこの1年で抗PD-1抗体を使用した患者は世界中で3万を超えるのと、既に発売から約5年が経過しているので、この10万という患者の人数は当たらずといえども遠からずといったところだと思います。

 

・・・

と、これまでは新聞記事の批判点ばかり書きましたが、最後に良い点を一つ挙げます。

 

GVP省令という法律で副作用(有害事象)を調査する義務が製薬会社に課せられていると書きましたが、この情報を入手するためにはまず患者が医師に自分の副作用についてきちんと伝えないと話が始まりません(当たり前ですが・・・)

 

但し、私の過去ブログでも書きましたが、元々日本社会において「美徳」とされるもののひとつに「謙遜」というものがあり、一歩下がって相手をたてることや、自分の主張を抑えて控えめにすることは、日本社会で生きていくためのマナーのひとつであり、ビジネス上でもある程度必須となる配慮と言われています。

 

そのため、患者さんは、「先生忙しそうだから・・・」ということを考えて、結構言いたいことや疑問点を言わない方が多くいると思われます。

 

恐らく、欧米に比べると日本では(国民性から)副作用の報告が上がりにくいのでは?と仕事柄思うことがあります。

 

もしこの記事を書いた記者が、この様な日本の患者の状況を憂えていて、敢えて警鐘を鳴らすという意味でセンセーショナルな副作用の記事を書き、これを見た癌患者が「やっぱり副作用のことは心配だから、これからは副作用のことは遠慮せずに主治医に伝えよう!」と思うことを見越して記事を書いたのなら・・・

それこそ超1流の記者という見方が出来ます(#^^#)

 

そこまで医療行政の問題を見越して、敢えて無知なフリをして記事を書いているのなら、私も脱帽!ゴメンナサイと頭を下げるしかありません!

 

この記事を書いた記者の意図は読めませんが、少なくともこの様な副作用の情報は膨大なデータを基に日々更新され、それが医師にフィードバックされるシステムが既に構築されて、それを基にして患者に対する治療が行われています。

 

なので、この記事を読んで副作用に対して不必要に不安がったりする必要は全くないということです。

(基本的に、薬は程度の差こそあれ副作用は必ず出るものなので(それが体の異変として症状が出るかどうかは置いといて))

重要なのは、副作用が出ても適切な処置でなるべく被害を最小限に抑える、或いは副作用をコントロールすることです。

 

そのために大切なのは(前から話しているように)、主治医と十分なコミュニケーションを取り、良好な信頼関係を築いた上で患者として言うべきこと、伝えるべきこと(副作用や治療の疑問点等)をきちんと主治医に伝えた上で、納得のいく治療を受けて頂くことが大切だと言うことです。

 

============

治療中の方は良い効果が得られますように!

経過観察中の方は、良好な状態がずっと続きますように!

============