これは1980年に発売されたジョージ・ベンソンのGive Me The Nightに入っている曲だ。ベンソンは60年代中盤にマイルス・デイビスに誘われてMiles In the Skyに参加した後、スタジオミュージシャンとして活躍し1976年にソロアルバムBreezin’を発表して彼の名を世界中に認めさせた。どちらかといえばジャズの色合いが濃かった彼だがこのアルバムからプロデュースをクインシー・ジョーンズに任せてアダルト・コンテンポラリー・ミュージックへと市場を広げることに成功した。

Moody’s Moodは1935年に発表されたI’m in the Mood for Loveをベースにジェームス・ムーディーが1949年に発表した曲がスタンダードとなっている。この曲は様々な人にカバーされ近年では2003年にエイミー・ワインハウスが、2011年にはJUJUがカバーしいる。

 

ジョージ・ベンソンはこの曲で当時マイケル・ジャクソンとのデュエットなどでポピュラーになり始めていたパティ・オースティンとデュエットしている。ほかの人のカバー曲と聞き比べるとわかりやすいのだが、ベンソン+オースティンのMoody’s Moodはゴージャスでおしゃれで、洗練さのかけらもなく垢抜けない、アメリカの薄っぺらな成金文化をその魅惑的な甘いボーカルで表現した傑作だと思う。ほかの人たちではアメリカ文化の粗野な部分をここまで豪華でおしゃれに表現できていないのではないだろうか。ベンソンもさることながらクインシー・ジョーンズの手腕によるところが大であろう。

 

粗野なアメリカというものはこの時代くらいまでであろうか。80年代後半からアメリカはスターバックスでコーヒーの味に目覚めアップルという世界に自慢できる高級ブランドを手に入れると、90年代くらいから文化的後進国から脱却して自信を持ち始めて文化的にも世界を支配し始めていくことになった。個人的にはもはや絶滅危惧種となりつつある、80年くらいまでの古き良きアメリカ、どことなく粗野で垢抜けていないがたくましくて頼りがいのある兄もしくは父親のようなアメリカ、やさしさの中にも凛とした佇まいで家族をどこまでも守り続ける母親のようなアメリカ、このようなアメリカ文化を愛して止まない。

 

ご興味のある人はアマゾンミュージックやほかのサブスクで視聴可能だ。YouTubeでも聞くことが出来る。