寡黙な詩人は横たわる | 宇宙の森探索

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その当時
間違いなく僕は
人生の深淵に沈み込み
這い上がれない
苦しさ
もどかしさに
一人で耐えていた

いや
もしかしたら

耐えきれずに
僕に近寄ってくる女性という女性と
見境なく
交わっていたのかもしれない















寡黙な詩人は横たわる


唄えない唄の向こうに
語れない心があり
ぼくの廃墟で
ぼくに語りかけたたくさんの女性たち
いつかあなたにも話してあげよう
金網も瓦礫もくすんだ不安も
見当たらず
初夏の暖かな午後には
ラナンキュラスの花さえも香るような
そんなぼくの完成された廃墟で
裏切りよりも美しい
逃避の抱擁が交わされたことを

語れない心の向こうで
人はいつまでも黙り込む
そうなんだ
言葉は自らを苛さいな
言いあてられないもどかしいほどの
沈黙のあと
深い霧のように流れだす
ブルースの底で
寡黙な詩人は一人横たわる

いつかあなたにも分かるだろう
陶酔よりも鮮やかな傷口をひろげ
それでも誰よりも穏やかに
ぼくが微笑むことができたのは
遠い射程の果てで
決して結べない人の有効距離を
爪をかむほどに乾いた孤独の飢えを
いやそれよりも
あなたの見た荒野の翳りに
ぼくの人形ひとがたが重なることを
知っていたから

いつかあなたも知るだろう
交わされたのは
言葉ではなく
裸の絶叫
その恐ろしい不毛への倒錯
やがてぼくの廃墟で
あなたはすい込まれるように
覚醒するだろう
くずれかけた都市の眠りをよぎり
一人消えようと願う
寡黙な詩人の底には
痛みに似たうすら寒い潮流が疼き
ただ見つめ続けるのは
ぼくに見えない
ぼくの未明