ここのところマイコプラズマという言葉をニュースで聞くことがあるかも知れません。昨年も流行していて、小児科医の集まりで「抗生剤を使うハードルが下がった」と仰るドクターもおられたくらいだったのですが、全国的に今年も多いです。
とても分かりやすく説明されていましたので、東海テレビから、
もし家族が感染したら…全国で猛威振るう『マイコプラズマ肺炎』医師に聞いた子供の感染多い理由や対処法
記事の医師もコメントしていますが、「大多数の方が軽症で、重くならずに自然と治癒する」ことが多いのがマイコプラズマ感染症の特徴です。記事の医師は3~4週間咳が続くと仰っておられますが、実際には2ヶ月くらい咳が続く人もおられます。
マイコプラズマはインフルエンザや溶連菌ほど名前がメジャーではないので、診察中に名前を出して説明することは私はあまりありません。1週間以上咳が多くてやわらがない場合は、誰でもマイコプラズマ感染症の可能性があります。咳が長いので抗生剤を処方しますねと言う時には、こういう類の感染症を想定したと思ってください。
正式には病原体は肺炎マイコプラズマといって、肺炎マイコプラズマで肺炎になると、マイコプラズマ肺炎と呼ばれます。ややこしいですね。なので、本当は『肺炎マイコプラズマが流行っている』と表現するのが正しいです。また、かかった人全員が肺炎になるわけではありません。
当院の小児疾患データベースから、マイコプラズマの情報を少し文章を整理して載せます。
マイコプラズマ
人工培地に発育可能な自己増殖性微生物の中で最小の微生物である。一般の細菌とは異なり細胞壁を欠き3層の限界膜に包まれており、そのため形態は多様であり、細菌濾過膜を通過する。従って発見当初は濾過性病原体と呼ばれた。しかし、ウイルスとは異なることから、その後PPLO(ウシ肺疫様微生物)という名称も使われた。自然界に広く存在し、ヒト、動物、植物に寄生する。ヒトから分離されるマイコプラズマは現在、マイコプラズマ属やウレアプラズマ属など16種類が報告されているが、病原性が確認されているのは原発性異型肺炎(マイコプラズマ肺炎)の原因となるマイコプラズマ・ニューモニアエである。マイコプラズマ・ゲニタリウムは男性尿道炎や女性頸管炎との関連が示唆されている。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)
マイコプラズマ・ニューモニエ(肺炎マイコプラズマ)は、子どもの呼吸器感染症の重要な原因のひとつです。1歳までに3割以上、5歳までに5割以上、成人までにほぼ100%の人が感染します。"肺炎"とついていますがすべての感染者に肺炎を認めるわけではなく、最大で100人中10人程度、学童期に多く、他の年齢ではさらに肺炎の頻度は低下します。潜伏期間は2から3週間で、発熱、頭痛、のどの痛み、倦怠感、咳などが出現します。ウイルス性感冒とは異なり鼻汁はあまり目立たないのが特徴ですが、低年齢では認めることもあります。咳は発熱から数日後に始まり、時に1ヶ月程度続くこともあります。発熱ははっきりしないこともあります。マイコプラズマ・ニューモニエによる肺炎の多くは重症度が軽く、walking pneumonia(歩き回れる肺炎)とも呼ばれ、内服での治療も可能です。マイコプラズマ・ニューモニエそのものの細胞障害性は低く、症状の多くは宿主の免疫応答の結果だと考えられています。そのため、咳といった呼吸器症状に加え、宿主の免疫応答の関与が考えられる様々な合併症をおこすことがあります。マイコプラズマ・ニューモニエそのものによる障害としては中耳炎の合併が多く、宿主の免疫応答による間接障害としては、発疹、蕁麻疹、その他、頻度が低いものであればさらに多様な合併症が知られています。近年では過剰なサイトカイン産生のために適切な抗菌薬の投与によっても解熱しない症例に対してステロイド治療が行われるようになり、効果があることが報告されています。マイコプラズマ・ニューモニエ感染症は軽症では抗菌薬は不要ですが、咳がひどい、あるいは咳が長引いている症例、肺炎を認める症例などには抗菌薬が処方されます。ワクチンはなく、手洗い、うがいなど一般的な感染対策を行います。
他に、マイコプラズマ・ゲニタリウムや、マイコプラズマ・ファーメンタンスが非淋菌性尿道炎などの原因になると考えられていますが、小児で問題となることはふつうありません。
まとめ:肺炎マイコプラズマは子どもの主な風邪の原因のひとつで、時に肺炎になることがある。
---------------------------------------------------
風の街こどもクリニックは滋賀県長浜市の小児科医院です。
https://www.kazenomachi-kodomo.website/
---------------------------------------------------