気まぐれに、Jimi Hendrixの名曲"Little Wing"(1967)のカヴァー集を思い立ったので、作ってみます。

 

以前、「おじさんたちの「泣き」あるいは「哭き」のギター」という記事を書いてみて、そのときにこの"Little Wing"を入れようかどうしようかなかなかに迷って、別立てにしようとして、今日、仕上げることにしました。

 

わずか1分半、10小節のコード進行がリフレインするこの「汎ブルース」は、さまざまなミュージシャンにカヴァーされて、有名どころでも、The DereK & The Dominos(Eric Clapton/Duan Allman)、Jeff Beck、John Mayer、Gil Evance、Stevie Ray Vaughn、Sting、The Corrs、Neil Young、Steve Lukather、Carlos Santana(w/ Joe Cocker)、Skid Raw、…キリがない。ってか、60年代生まれの以降のギター・キッズたちは、なんだかんだでこの曲は避けて通れなかったんじゃないかと思うくらいのスタンダードです。

 

 

さて、数ある演奏の中で、このところしばらく気に入っているのから行ってみます。

 

Eric Claptonのレンディションで、Sheryl Craw、David Sanbornと共演しているモノなのですが、このアルト・サックスのSanbornのキレっぷりが何か訴えるのですけれどね(おっとギターじゃないけどね)。

 

Eric Clapton, Sheryl Craw & David Sanborn, "Little Wing"

 

 

ベースはNathan East、ドラムはSteve Gaddという超強力リズム隊に乗せて、The Derek & Dominosのレンディションをベースにしたアレンジ。Dominosのスワンプ臭+ドラッグ・カルチャーが良くも悪くも薄まって洗練された感じです。ClaptonはやっぱりいつものClaptonで、コードとコードのつなぎ目に気をつけながら指グセのペンタで押し通します。

 

聴きどころは2'23"くらいからで、ClaptonとSanbornの掛け合いが始まります。映画『リーサル・ウェポン2』のサウンド・トラックような展開になるのかと思えば、Sanbornは、突如2'57"くらいからアウト気味にサックスで絶叫しはじめ、3'18"にはCrawが「David、どうしちゃったのよ?w」という感じで笑いだしますが、Sanbornは真剣です。いったん正気に戻ってSanborn得意の盛り上げ系アセンド節の展開を見せた後、再びアウトへ。

 

Sanbornの、狂ったかのようなソロは、この曲に何を見ていたのでしょうかね?この曲には、なにか「求めても絶対に手に入らない」絶望からくる狂おしさものも感じられますし、ドラッグで「あっちの世界」に行ってしまった者たちの狂気も感じることがありますが。
 
ただ単にClaptonがSanbornのソロを邪魔したからアウトしたって気もしますけれど、ソロを吹き終えた後のSanbornが笑顔に戻る前の顔は、なにかに憑かれたような、息継ぎが辛かったような。
 
ジャム・セッションを演っていると、突如、何かが降りて来る人たちはよくいるのですがね(笑

 

さて、次にゆく前に歌詞を見てみましょう。

 

"Little Wing",  Jimi Hendrix

 

Well she's walking through the clouds

With a circus mind

That's running wild(/round)<※1>

Butterflies and zebras and moonbeams

And fairly tales,

That's all she ever thinks about<※2>

Riding the wind

 

When I'm sad she comes to me

With a thousand smiles

She gives to me free

It's alright, she says

It's alright

Take anything you want from me

Anything

Fly on, little wing

 
彼女は雲の合間を歩いてる
サーカスの気分で
自由気ままに(/ぐるぐると)<※1>
蝶とゼブラ、月の光
それと、おとぎ話
そんなことで、ずっと彼女の頭はいっぱい<※2>
風に乗りながら
 
僕が悲しいとき
彼女はやってきて
1000の笑顔をふりまき
彼女はぼくを解き放ってくれる
「だいじょうぶ、
だいじょうぶよ」と彼女は言って
「欲しいものは、なにもかもわたしがあげる
なにもかも」
小さな翼で、飛びながら
 
<※1> running wild と running around の2つの歌詞が存在する
<※2>   Stingは、"That's all she ever talks about" と歌っていた
 
この曲の解釈にはいろいろあって、よく理想の女性像や、守護天使を題材に歌ったヘンドリックスの、ひとつの類型だというのが一般的なようです。
 
ヘンドリックスは、彼を捨てた母の顔をみることなく28歳でこの世を去った。だから、この詩は母親の幻影だと解釈する説がある。「雲の中を歩いている」のはすでにこの世の人ではないことの暗喩になっているように思います。独特の狂おしさは、そこから来るのかと。
 
だから、人気の高い曲だったのに、人前で演奏することは少なかったと。
 
また、クスリで壊れ、あるいは心を病み、だれにでも何もかもを捧げてしまう女性との関係のことだという風にみる人もいます。
 
また、この歌詞中の彼女が見せる慈愛と赦しは、人類全体に向けられていて、彼女こそは母なる地球だと、思いっきり拡張した解釈を語る人もいる。
 
大衆芸術だろうが高尚なそれであろうが、あらゆる「作品」には、鑑賞側の想像力に委ねられる「余白」があって、その余白は各人好きなように思いを膨らませれば良いと思っていて、解釈は聴く人のものです。でも、一方で、作者の意図や精神性を正確に見抜く感覚=センスを磨くのは愉しいものでもあって、そこにもなにかの「道」があると思うけれど。
 
次は、耽美派系の"Little Wing"。
 
現代Jazzの巨匠、Gil Evanceのスタイルを継承するStingのレンディション(実際にEvansとStingは共演している)は、Hiram Bullockの、何気ないように見えてトリック満載の見事なソロの後、青空を抜ける飛行機雲のように直線的なロングトーンから入るBranford Marsaliseのソプラノ・サックスが、文字通り"Little Wing"が舞うようで印象的です。歌詞中の"Fairly Tale"=おとぎ話のような美しい演奏ですね。
 
Sting, "Little Wing"(from "Nothing Like The Sun"), 1987
 

 

 

The Corrsは"Little Wing"をファドーグ(ティン・ホイッスル)とバイオリンで美しいケルト民謡にしてしまった。The Rolling StonesのRonnie Woodがゲストでボトルネックを披露しているLiveレンディションがあったので、貼ってみます。Woodが弾きだすと、ロックになっちゃうんだけどねw

 

Corrsのレンディションは、上述の「女神像」的な趣が色濃く出ているように思います。

 

The Corrs feat. Ron Wood, "Little Wing", 2011

 

 
 
Sting、Corrsと欧州勢が続いたので、オリジナルに近い方に行きます。インストですが、この人のプレイは玄人好み。36歳の若さでヘリコプター事故に遭い、この世を去った伝説のギタリスト、Stivie Ray Vaughn。
 
Stevie Ray Vaughn, "Little Wing"
 

 
多くのギター・キッズがなぜこの曲が支持されるか?TOTOのSteve Lukatherの自由なプレイでどうぞ。本当は、現代のGod of The GuitarのJohn Mayerも紹介したいのだけれど、彼の音源はちょっと音質が悪いので、興味のある方はコチラを。かなり良いよ。Lukatherのは、冒頭で、HendrixとRay Vaughnへのトリビュートだと高らかに宣言していますね。HendrixのTシャツ着てるし。ちょっとドラマチックに過ぎるかな。
 
 

 
個人的には、はじめてこの曲と出会ったThe Derek & The Dominosのレンディションが時々聴きたくなる。フラワーっぽい、リバーブとエコーを多用した浮遊感のあるサウンドと、ClaptonとAllmanのメロディアスなソロの掛け合い、Bobby Whitrockの哀愁の漂う野太いコーラスが、オリジナルにはなかった情感をたたえるラヴ・ソングになっているように思います。
 
 

 
 
 
最後にオリジナルを。何も言うことはない、かな。
 
 
Jimi Hendrix, "Little Wing", 1967
 

 
 
 
 
Good Luckクローバー