たまたま面白い映画を観たのでシェアします。
グローバリズムについて考える方にオススメです。
2015年の米国映画で『選挙の勝ち方教えます("Our Brand Is Crisis")』が、それです。
監督は1975年生まれのデヴィッド・ゴードン・グリーン(David Gordon Green)。脚本は、ピーター・ストローハン。主演は、サンドラ・ブロック。もともとは同名の"Our Brand Is Crisis"というドキュメンタリー・フィルムを政治・社会はコメディ(…というにはシリアスですが)に仕立てた映画です。
基調のストーリーは、南米ボリビアの大統領選で、選挙戦の”戦略家”として雇われたサンドラ・ブロック演じる、主人公ジェーン・ボディーンの過去のトラウマを乗り越える活躍を描くヒロインものです。そして、選挙にまつわるフェイク・ニュースやイメージ戦、対立候補への嫌がらせ、揺さぶりの内幕がそれなりのリアリティをもって描かれています。
面白いのは背景で、選挙の大きな争点は、民族主義とグローバリズムの対立です。「国の貴重な資源を外国資本に売り渡すのか?」という民衆の声を、事あるごとに取り上げます。そしてジェーンが”戦略家”として雇われた陣営の候補者は、IMFに加盟して資金調達と外資導入を目論むグローバリスト側でした。現実のIMFは、しかし、途上国への金融支援で失敗を重ね、貸付にあたっては「構造調整」という名の内政干渉との批判も多いもので、それを踏まえています。
あるシーンで、アメリカから来た選挙スタッフがボリビア人の青年に言います(セリフの再現は記憶によります、ごめんなさい)。
「自由主義、市場経済が国民を豊かにし、貧困から国民を救うんだよ」
ボリビアの貧困層の若者が返します。
「神の見えざる手か?」
「なんだって?」
「アダム・スミスだ。」
「ああ、そうだな」
「その”見えない手”が俺たちに何をしてくれると言うんだ」
「…、負けたよ…、そうだな」
原題の"Our Brand Is Crisis"は、「私たちのブランドは"危機”」と、劇中でジェーンが決めて、国家の危機を煽ってゆくシーンにちなんでいますが、おそらくOurをアメリカに言い換えたDouble Meaningでしょうね。
この映画は日本では公開されず、ビデオ・スルー(ビデオ販売・レンタルのみ)となりました。日本で観客が動員できる感じはしませんね。”Doctor X”のように忖度と組織の官僚化・権威主義化をテーマにしていた方がウケますし。こういう言い方は忸怩たる思いもあるのですが、欧米の方が、あるいは欧米資本にぐちゃぐちゃにされた国々の人の方が、日本人に比べて「グローバリズムの弊害」に敏感です。
そんなわけで、日本では「骨太の改革」とか、「岩盤規制にドリルで穴を開ける」とか、「自由貿易の旗を掲げる」、「外国人労働者を増やせ」、「外国人参政権を!」、「二重国籍を認めろ」など、規制を緩和して外国や外資に利権を解放するという政策が争点にはならない。憲法改正すらできなくなっているのですから、そうした根源的な国のありようについての疑問が弱いのかも知れません。またこの映画は、そうしたことに認識がないとつまらないかも知れませんね。
完璧な娯楽作品である、リュック・ベッソンの”Le Transporteur”のシリーズ3作目(『トランスポーター3 アンリミテッド』)でも、悪役が政治家に「いまや大資本の言いなりになるのが政治家の役目だろ」なんてことを言って脅しています。おそらく新自由主義のの弊害については、それなりに普段の問題として、浸透しているのでしょう。
あ、むろんハリウッド映画ですから、その範囲でお楽しみください。
爽やかな4月の風を感じるパット・メセニーの名曲を貼って、口直しとさせてください。
Pat Metheny Group, "April Wind" and "April Joy" (1978)
Good Luck
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