唐突ですが…

 

積極財政論も緊縮財政論も、どちらも一理はあるし、その心意気に共感するものはあるけれども、どちらもどっぷり賛成できない。なんだかもやもやするので、現場感覚でゆるく書いてみますよ。

 

□ 積極財政論への疑問

 

▼ 積極財政派の主張と疑問のはじまり

 

積極財政論では、公共投資を通じて、中間所得者層の所得水準を上げると同時に中間層の数を増やすとか、労働賃金の底上げや広がる格差の緩和が目的だという。また最近は、国土の強靭化も目的のひとつとして加えられている。

 

「日本に財政破綻はない」、「基軸通貨国である日本は、紙幣(円)はいくら発行しても構わない、したがって国債はもっと発行できる」という前提で、それを原資に公共投資を拡大せよと言う。

 

公共事業は、災害対策や国防などのインフラ整備を中心に国土の強靭化を中心にしよう。需要が増えれば、失業者も減り、賃金もあがる。

 

でも、実際のところそうした目的を果たせるのか?というところが、見えない。

 

 

▼ 公共事業受注の基本構造

 

だって、まず公共事業は政府調達や政府系外郭機関の調達を経て民間に落ちる。民間といっても先に喰うのは一定規模のある企業である。

 

規模の大きなプロジェクトほど、プライム・ベンダー(一次請け)の選定には「ガラス張りの入札」が原則とは言え、規模と実績が求められるし、失敗の可能性は減らしたいから、政府と直接契約できるのは、既存の大企業限定となる。素人や駆け出しの出る幕ではない。そもそも彼らは政府の調達仕様書すら読める者が少ない。

 

だから、公共事業マネーをどう使うかは、受注したそうした企業に委ねられる。

 

言わずもがなだけれど、大企業はビジネスの力が強いから大きい。だから儲かるようにする。格好良く言えば、「利益を最大化」する。利益を最大化するというのは、より安い原価で顧客の要求を満足させるということに他ならない。また企業は、その所有者である株主の利益を最大化しなければならない。それは会社の価値を増大させるということだ。株主にとっての会社の価値とは、会社の資産が増えて(成長し)、より多くの利回り(=配当)を得ることと、自らの株の価格が上昇することにある。そして、会社の資産のひとつは、「内部留保」といわれる資金である。利益を多く出すだけではなく、それが会社の価値を証明する「現物」として抱えていることが求められる。この内部留保というカネがあれば、余計な金利を払って金融機関から資金を調達する必要もない。

 

かくて大企業は、受注した公共事業を原価の安い外部から調達しながら進めることになる。この原価圧縮の圧力は、下流に向かうほど高まる。よくサービス系の上場企業の内規に、30%ルールというものがある。下請け業者に丸投げする場合でも、マージンは最低30%確保しなければ発注決裁が降りないというものだ。1,000万円で受注した工事は、700万円以下で下請けに出さなければならない。そして、30%以上のマージンを確保できれば、それは担当者の成績に繋がる。二次請け以下も真似をするから、三次請けに至る頃には、同じ仕事が500万円を割る。それぞれの階層で担当者は頑張るので、原価圧縮の圧力は川下にゆくほど強くなり、最終的な賃金労働者のところで圧力はMAXとなる。末端がブラック化するのは構造問題である。

 

「同一労働・同一賃金」がいかに欺瞞に満ちているかもピンとくる話でしょ?労働に対する対価は、サプライチェーン上のどの相場が正しいのか?謎ですよ。

 

結局のところ、単純に公共事業を拡大しても、そのアガりはプライム・ベンダーの内部留保として大きく堰き止められる。川下に行くに従って利益機会は減少してしまう。

 

だから公共投資の拡大は、実のところ大企業の企業価値が増し、時価総額を引き上げ、投資家が儲かるだけでしょう?という疑念は拭えない。そして、目的としている「中間層拡大・所得拡大」に資するとは限らないではないか、という話になる。「中間層拡大・所得拡大」のパス(経路)はどこにあるんだ?と。

 

そして、むしろいまいまの、格差、ワーキング・プア、長時間労働、人手不足などの問題を拡大してしまうかも知れない。解決策は違うのでは?と思う次第なのですが…

 

日本の公共事業関連費の推移

 

 

この話はもう少し続けようと思います。以下、次回。

 

 

 

Zapp & Roger, "Do It Roger〜So Rough, So Tough"(1989)

 

かっこいいねぇRoger。惜しい人を亡くした。楽器本来の音でドンシャリ作ったり、トーキング・ボックスで今のPerfumeやT-Painがやっているようなことをやったり。”くま”的にはPop-Funkの原点にして頂点だと思っていて、なかなかこれを凌ぐ人たちが出てこない。サイコー!