「石川さん、ちょっと聞いていいですか。」
谷内が、石川のグラスにビールを注ぎながら尋ねた。
谷内は、今年2月に天照堂グループのシステム会社、株式会社ARAHAに中途採用で
入社してきた社員だ。
石川は、谷内と同じ部署の先輩で、年齢は34歳で妻子持ちである。
谷内の相談役を仰せつかったのである。
元々面倒見の良い人柄は、周りからも好かれ本人も一つの才能と自負している。
仕事帰りに二人で居酒屋に寄って一日の労をねぎらっていた。
「ん。どうした。」
「うちの社員ってみんな天照堂の島田敬志社長のスカウトで入ってきたって本当ですか。」
「あぁ、そうだよ。俺もそうだ。ウチのグループは、求人は出していない。」
「何か、社員の共通点はあるんですかねぇ。」
「うーん。ウチの社長が、チラッと言ってたんだけど、才能があるのに発揮できていない人間を集めているらしい。」
「英樹社長がですか。」
英樹社長とは、株式会社ARAHAの社長であり、島田敬志の兄である。
元々はシステム会社に勤務していたところを、弟の敬志に引き抜かれた形となった。
「確か、敬志社長もシステム経験があると聞いたんですけど。」
「ああ。でもそれだけじゃないぞ。」
石川は、焼き鳥を串から外し、七味をふりかけ、谷内にすすめながら答えた。
「システム開発の経験もあれば、チラシ、ホームページ、商品の物撮り、映像制作、受注、出荷、コールセンター、マーケティング、分析と色々やってきたそうだ。」
谷内は、ちょっと頭を下げ、石川のグラスにビールを注いだ。
「へぇー。そんなに色々と転職してたんですね。」
「いや。転職は2回だけ。それぞれの会社内で色々任されていたそうだ。」
「そんなに器用には、見えないんですけど。」
「だろー。俺もそう思ったんだけど・・・。」
「システム以外にデザインとかやれって言われたら無理っすよー。才能ないし。」
谷内は、ちょっと不安そうに言った。まるで石川にその仕事が来ない様、根回しをしているようだ。
「敬志社長が、どうして色んなことが出来るか聞いたことがあるんだよ。」
「それはな・・・」
石川は、谷内の眼を覗き込みながらちょっと楽しそうに話し始めた。
