警察署の取調室に入った人はいるだろうか。
僕は1度だけ入ったことがある。
と言っても、犯罪を犯したわけではない。
ある日、仕事の残業で帰りが遅くなり、午後8時ごろ電車に乗って帰宅していたら、僕の隣に立っていたサラリーマンと、その前に座っていたサラリーマンが「膝が当たった」「当たっていない」と些細なことで大喧嘩を始めて、とうとう殴り合いの喧嘩になった。
2人とも血まみれになり、「これはやばい!」と思って、僕の横隣に立っていたサラリーマンに「もうその辺でいいでしょう」と言って、後ろから羽交い絞めにした。もう1人の方は、別の人が羽交い絞めにしてくれて、喧嘩は何とか収まった。
でも、ほとんどの人は見て見ぬふりをしていた。誰もけんかを止めるのを手伝おうとせず、「みんな冷たいな」と思った。
血をぬぐうハンカチを手渡してくれた女性はいたけど・・・。
乗客の誰かが110番したみたいで、次の停車駅のホームに警察官が待っていて、電車に乗り込んで、その2人を連行した。
喧嘩を一緒に止めた見ず知らずのサラリーマンに「あとは警察に任せましょう。これで家に帰れますね」と話していたら、警察官から「署まで同行願います」と言われて、その駅で降ろされて、駅前に止まっていたパトカーに乗せられた。
「明日も朝早くから仕事なんですけど」と言ったが聞き入れてもらえず、「すぐ終わりますから」と言って乗せられた。
「知らん人が見たら、僕はどう見ても犯罪者やん」と思った。
警察署に着いて取調室に連れていかれた。
初めて見る取調室は、刑事ドラマそのままだった。
6畳ほどの狭い部屋の真ん中にぽつんとスチール製のデスクが置いてあり、折りたたみいすが向かい合うように置かれていた。
デスクの上には卓上灯があり、きっと「いいかげん吐け~」とか言いながら、ぴかっと照らされるのかもしれない。
窓の方を見ると、鉄格子がはまっており、脱走できないようになっている。
その手前にはブラインドカーテンがある。
「お~、刑事ドラマそのままやん」と、自分が置かれている状況も忘れて、ちょっと感動した。
僕はいすの1つに座らせられて、目の前に刑事が座って、事情聴取が始まった。
喧嘩が始まるまでの電車内の様子や、喧嘩が始まった時の状況や、その時のまわりの乗客の様子など、事細かに聞かれて記録を取られた。
結局30分ほど事情聴取を受けて「ご協力ありがとうございました」と言われた。
かつ丼が出たら、「僕はカツが食べられません。玉子丼にしてください」と言おうかなと思っていたけど、かつ丼が出ることもなく、僕は釈放された。
しかも、駅までまた送ってくれるのかと思いきや、「自分で帰ってください」と言われた。
仕方なく駅まで徒歩10分ほどの道のりをてくてく歩いて帰った。
ひどい目に遭ったけど、すべては経験と感動。
なかなか体験できることではない。