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登場する人物、団体、名称はすべて架空のものです。

この小説は

”Obsessed with you”、

”Forbidden Affection”との

連動小説となっています。


初めてごらんになる方、お読み直しなさりたい方は

 小説インデックス



をご覧ください



俄かに寒くなり始めた年末の夜に


九条と付き合い始めた頃を振り返っていた俺だが、


不意に中学生の頃、親しかった友人が


隣のクラスの女の子と付き合いだした時の事を


思い出した。



そいつはまぁ、どちらかと言うと冷静な奴だった。



だのに、隣のクラスの女子と付き合い始めた途端、


彼の挙動は驚くほど変わった。



まるで熱に浮かされているかのごとく


フワフワしたりそわそわしている事が多くなり、


些細な事によく笑うようになった。



そして


休み時間ともなると彼女に会うために


チャイムが鳴り終わるか否かで教室を飛び出していった。



そんな彼の甘酸っぱい青春の様を


陰で見ながら


俺たちはそれをバカにして笑っていたことを思い出していた。



しかし、彼の事を笑ったのを今更申し訳なく思うほど


九条と付き合い始めた頃の俺の言動は


あの時の奴のそれと全く同じだった。


俺の場合、女性と交際するのが初めてだったわけではないが、


それまでは恋に関して、常に受け身だった気がする。


それまで誰かを心底好きになった事がなかったのだ。


だから謂わばこれが俺の本当の初恋なのかもしれない。



そして人は年齢に関係なく、初めて恋に落ちると


程度の差こそあれ、常軌を逸脱してしまうのだろう。



九条と気持ちを通い合わせたその当日、


その親友の様に、


いやそれ以上かもしれないほどに冷静さを失っていた俺は


翌日になってもその様子は変わらなかった。





いつもだるく感じた朝がこんなにも素晴らしいもので


目に映るものすべての色が鮮やかで、


何もかもが遣り甲斐に満ちているように感じた。



特にその日の2Bの授業は格別だった。


初めて教鞭執った時以来の緊張と、更にそれに付け加えて


高揚感を感じる。




そうして教室の扉を開けて


真っ先に目に飛び込んできたのは


やはり九条だった。



自分がその方向に意識的に目を向けていたせいだが、


九条の姿は俺の目に今までのそれと異なって映った。




九条は生徒だけでなく、今や自分の彼女なのだ。



今まで遠い存在だった彼女がすぐ近くにいる。


実際、出来ることなら、生徒の目も憚らず、


九条の目の前まで行って


取り留めもない事を話しながら


くすぐったい気持に浸りたい気分だった。





しかし、その俺の気持ちをよそに


九条の様子はいつもと変わらなかった。



まるで


浮かれるないで仕事して!と叱咤されているようにも感じた。



まぁ・・・こう言うのも悪くないかもな…



そんな言葉を頭でつぶやいくと、


首筋がくすぐったくなるような感覚を覚えて、


俺って実はマゾか?


など、到底授業とは関係ないことを頭の隅で考えつつも


なんとか自分を戒めていた。


それでも俺は授業中、少しの期待を込め、


テキストに目を落とすふりをして


何度か九条にこっそりと目をやってみた。



『皆が下を向いている時位は


何か心ときめく事が起こるかもしれない』



そんな希望を性懲りもなく、僅かながら持っていたのだ。



だのにやはり九条は特別なサイン


―例えば目配せや仕草なんか―をすることもなく、


ただただ真面目に授業を受けていた。



生徒としては当たり前のことなのだが・・・



なんというか寂しく感じて


「前日の出来事は夢だったのではないか」


と疑ってしまう程だった。




_____________________






ソファーの上に腰をおろし、


濡れた髪をバスタオルで乱暴に乾かしながら


俺は3か月前の事をそこまで思い出して


フゥと大きくため息をついた。







『付き合い始めのあの頃がもう懐かしいな』



そう言って笑えたら最高なのだが。



だがなんと、俺たちはそんな地味な関係を


3か月も続けていた。





普通のカップルなら、


付き合いだして数か月も経てば


かなり慣れ合っている頃だろうが



しかし、


教師と生徒と言う関係のせいだろうか、


2人の仲は


一向に進展する気配がない。






彼女から来るメールは相変わらず


控えめだった。


いや素っ気ないと言う方が妥当だろうか。




「今日は会えたね」


とか、


「今日は会えなかったね」



とかそんな程度で、


「おやすみなさい」


なんて一言だけのこともある。





今夜も俺がメールするよりも早く


彼女からメールが来たが


例の



「おやすみなさい」



だけだった。








「『おやすみなさい』・・・かぁ・・・」


俺は携帯を片手に


ソファーの上で独り呟いた。





「おやすみ」ならまだしも、


「なさい」が付くと、


どうも他人行儀な感じがしてならない。



しかも、


就寝前の挨拶をされてしまったら


それ以上メールを送信するのは憚られる。





俺はソファーの背もたれに背中を預けて


半ば上を向きながら


その九条からのメールに



「今日は寝るのが早いんだね。


おやすみ。また明日」



と打って、返した。



そして


重たく感じる腰を持ち上げ、


のろのろとベッドルームまで


歩を進めると


ベッドの上に


どさっと音を立てて


寝転んだ。



そうしてベッドに寝そべりながら


おもむろに携帯を開くと


カーソルボタンを押し、


彼女からの来た3カ月分のメールを


遡って読み返してみた。





「・・・」



彼女からのメールのどれもが


一目で読めてしまうくらい短く、


代り映えがしない。





そうしてすぐに


最初のメールまで行き着いて


俺はパタンと携帯を閉じた。





付き合い始めの頃は


その事実だけで満足できたが


その簡単なメールだけのやり取りに


俺は物足りなさを感じはじめていた。




そう言えば付き合いだした直後、


一度デートに誘ってみたものの


バイトを始めたから週末はこれから毎週忙しいとかで


取り合ってもらえなかったよな・・・。



ハァ・・



一向に縮まらない彼女との距離を思うと


思わず何度もため息が零れてしまう。




俺たち、こんなんで


本当に「付き合ってる」って言えるのか…?




ベッドの上でそんなぼんやりとした不安を抱えながら


俺はどうやったら彼女ともっと仲良くなれるのかと考えみた。


だけれど、結局なんの策も見つけられないまま


そのうちに俺は眠りに落ちて行った。






___________________




翌日になっても俺の頭の中は色褪せたままだった。


そしてそんな冴えない頭を抱えたまま俺は玄関を出た。



この頃は省エネのために


電車で出勤することが多くなってきたものの、


今朝は特別に冷え込んでいて。


俺はマンションの前でしばらく躊躇した。



そして・・・




落ち込んでいる日くらい、


甘えてもいいよな、



自分にそう言い訳すると


踵を返し、


駐車場へ足を向けた。






男性は車好きが多いと思うが、


俺も例にもれず車が好きだった。


車の持つ、様々な側面が好きだが


車に乗り込む時もまた格別だった。



シートの上質な革のにおいが気分を落ち着かせてくれるし


イグニッションキーを回した時の


エンジンが始動する音も心地良い。




いつものようにキーを差し込み


力強く捻ると


ブォンと上品な音がして


エンジンがかかった。



「よし・・・行くか・・・」


俺は独りそう小さく掛け声をかけると


車を車庫から滑らせるように出した。






教鞭を執るものは


率先して環境に配慮して電車で通勤すべきなのだろうが


愛車での出勤は自分にとってのちょっとした贅沢だった。


女性にとったら所謂スウィーツの様なものだろうか。


温かく、プライベートな空間は電車のそれとは比較にならない。





しかし、そんな至福の時間は驚くほど短いもので、


すぐに学校脇の駐車場に到着してしまった。


俺はギアをパーキングに入れると


フロントガラス越しに目の前に聳える校舎を見上げた。



「よし・・・仕事だ」



自分に喝を入れるようにそう呟くと


ドアを開いて車を降り、その場で軽く伸びをした。


そうしながら冷たい空気を鼻で大きく吸い込むと


鼻の奥がツンとして


冴えない頭が少しだけすっきりするように感じる。









出勤してしばらくすると


校舎全体が生徒たちの声で賑やかになった。



どこか冴えない俺とは対照的に


生徒たちは嬉々として


舞い上がっているようさえ見える。



受験を控えた3年生以外は、


特にそうだった。




それもそのはずだ


期末テストが終わってしまって


明日の終業式が終われば


冬休みが始まるのだから。





授業中であれ休み時間であれ、


テスト前ほどの緊張感が


殆どの生徒から消えてしまっていて


放課後ともなるとその極みだった。




ついこの間まで


そこここで教科書や参考書と睨みあっていた生徒が沢山いたというのに


今はそんなことしている者は誰一人としていない。


テキストの代わりに旅行のパンフレットを持って歩く者までいた。




俺はそんな放課後、


教室前の、彼らが賑やかに屯する廊下を


通って職員室に向かっていた。



別にそこを通らなくても


幾らでも近道があるのだが



俺は3か月前から


どこに行くにも態々このルートを選んでいた。



自分の彼女の顔を見ておきたかったからだった。




そこを通れば必ずと言うわけではないが、


彼女の顔を垣間見ることができる。



現状、メールだけでつながっている2人なのだから


彼女に近づける可能性があるのであれば


それを逃す手はない。




2年生の教室前の廊下に差し掛かると


俺の歩は無意識の内にスローダウンした。



「九条はいるかな・・・」


俺は頭の中でそう呟きながら


辺りを見回した。



するとそのザワザワとした沢山の生徒たちの中に


彼女を見つけた。



いつものように知らんふりされても構わない。


ひと目彼女の顔を見られるだけで俺は良いんだ、


そう言い聞かせながら


彼女の横顔を気付かれないように見ながら


黙ってその場を通り過ぎようとした


その時だった。



「!・・・」


彼女は俺が来たことに気付くと顔をあげて


俺の目を見つめた。



その目は何か訴えたいと言わんばかりの感じで


いつもと違う展開に俺はドキリとした。





そんな彼女に


俺は不自然に足が止まらないように


ゆっくりと歩みを進めながら


「何かあったのか?」


と尋ねるような表情を作ると


彼女も俺に近付いてきて


口を開きかけた。





続く