ピンク・レディーが1979年12月にリリースしたアルバム「ウィ・アー・セクシー」。現在主な音楽配信サービスで、ハイレゾ音源も含めて聴けるピンク・レディーのオリジナルアルバム12作品の内、リリース順では最後の作品にあたる。


同年夏の全国コンサートツアー「ビッグ・ファイト’79」で演奏された曲を、ライブと同じアレンジで改めてレコーディングし、それらを中心に構成したスタジオアルバムだが、前回も述べた通り、当時の制作の経緯などに関する記録や証言がほとんどない謎多きアルバムでもある。


確かな情報が少ないため、自ずと言及できることに限りはあるが、とりあえず今回から個別の楽曲について収録順に書いていく。


西武ライオンズ球場で開催された「ビッグ・ファイト’79」で歌う(近代映画社「ピンク・レディー・メモリアルブック」より引用)

1:メドレー
a)マッカーサ・パーク 
b)ヘブン・ノウズ

この頃、世界の音楽シーンを席巻し「ディスコの女王」(Queen of Disco)とも呼ばれていたドナ・サマーさん(Donna Summer)の2つのヒット曲のカバーからなるメドレー。「ビッグ・ファイト’79」のオープニング用に前田憲男氏がアレンジしたもので、アルバムの1曲目にもかかわらず演奏時間12分20秒もの大作になっている。

ミーちゃんケイちゃんの歌よりもインストの部分が長いのは、コンサートの演出上、球場など大会場で2人がステージに登場するまでの移動時間なども考慮したからだろう。ただ、ドナ・サマーさん自身が「マッカーサー・パーク組曲」(MacArthur Park Suite、78年)と題して、この2曲を含む3曲のメドレーを12インチシングルでリリースしていて、演奏時間は17分半を超えている。この12インチバージョンを、前田氏もアレンジの参考にしたに違いない。

メドレーは、a)b)a)という構成になっている。まず哀愁を帯びた響きのピアノを中心としたa)のイントロがミディアムテンポで静かに始まり、シンセサイザーが主旋律を奏でるなどして2分50秒近く続く。2人のボーカルが入り、1コーラス、約1分20秒歌ったところで、曲調が一転し、アップテンポで華やかなディスコサウンドに。ブラスやコーラスも加わって、4分以上に渡ってインストで盛り上げていく。

そしてメドレー開始から8分20秒で、再び2人のボーカルが入り、b)を2コーラス歌う。間奏が約20秒あって、もう一度a)に戻り、サビの部分を歌ってアウトロ、12分20秒で完奏という流れである。

改めて、それぞれの楽曲について紹介する。a)の<MacArther Park>(日本語表記は通常「マッカーサー・パーク」だが、このアルバムでは「マッカーサ・パーク」)は、アメリカのシンガーソングライターで多くのアーティストにヒット曲を提供しているジミー・ウェッブ氏(Jimmy Webb)の作品。黄昏時の公園で、失くした恋の思い出に浸るという歌で、オリジナルは68年にアイルランドの俳優リチャード・ハリス氏が歌ってヒットした。この時のバージョンも演奏時間が約7分半の大作だった。

晩年は映画「ハリー・ポッター」シリーズで魔法学校の校長役も務めたことでも知られるハリス氏だが、この時も既に40歳に近かった。失礼ながら、ちょっとしょぼくれた中年男が、オーケストラをバックに、昔の恋人との思い出を切々と歌ったこの曲が、まさか10年後にディスコで大ヒットするとは、誰も予想しなかったのではないか?

78年9月にドナ・サマーさんがシングル曲としてリリースしたカバーバージョンは、演奏時間を4分弱とコンパクトにしている。出だしはオリジナルと同様にミディアムテンポで静かに始まり、途中からアップテンポの派手なディスコサウンドに変わる構成は、このバージョンを踏襲したものだ。

b)の<Heaven Knows>は、a)の次のシングル曲として78年12月にリリースされている。主人公は恋人とケンカでもしたのだろうか?<神は知っているのよ。こんなやり方はあるべきじゃないし、あり得ない。わからない?別れることなんてないわ>と相手を宥め、2人の愛を再確認しようという歌である。

この曲は男性3人組のソウル・グループ、ブルックリン・ドリームズ(Brooklyn Dreams)との共演で、メンバーの一人、ジョー・エスポジート氏(Joe Esposito)がサブ・ボーカルを務め、Aメロではメイン・ボーカルのドナさんが歌ったフレーズを、後から追いかける形で、デュエットを繰り広げる。

このアルバムでは、ドナ役をミーちゃん、ジョー役をケイちゃんが独特のハスキーボイスで歌うことで、見事に曲の世界に迫っている。当時の日本の歌謡界で、こういう曲を歌わせたら、この2人の右に出る者はいなかっただろう。

西武球場での「ビッグ・ファイト’79」の映像を観ると、オープニングの花火を合図に、たくさんの風船が空に放たれ、2人が揃ってフィールドに登場。間奏の間にファンに手を振りながら場内を移動し、ミーちゃんが下手、ケイちゃんが上手からステージに上がって、この「ヘブン・ノウズ」の掛け合いを聴かせるのだが、これがとにかくカッコいい。

前作「ピンク・レディー・インUSA」では、プロデューサー、マイケル・ロイド(Michael Lloyd)氏の指示で、声質を揃えて軽めに歌うウィスパー唱法に徹していた2人だが、この「ウィ・アー・セクシー」ではそれほどでもなく、むしろミーちゃんケイちゃん本来のそれぞれの個性を発揮して伸び伸びと歌っているように思える。

2:アイム・セクシー

ご存知、イギリスのロックスター、ロッド・スチュワート氏(Rod Stewart)が78年11月にリリースし大ヒットした<Da Ya Think I’m Sexy?>のカバーである。

オリジナルよりも若干テンポは速めで、演奏時間は約5分。印象的なフレーズが繰り返されるイントロや間奏など、前田氏のアレンジは原曲のテイストをほぼ再現している。

オリジナルの英語詞は、男性が女性を誘い、一夜を共にして朝を迎えるまでを描いている。こう書くと他愛もないが、ユニークなのは、第三者の目線で<he / she / they>を使って物語を叙述する部分と、男性の目線で<I / you>で語る内面描写の部分が交互に切り変わることである。

♪Don’t you just know what they are thinking?>(彼らが何を考えているか、わからない?)という歌詞が示すように「オレってセクシーだと思う?」というタイトルは、あくまでも男の心の中の声である。余程のナルシストでもない限り、直接口に出して言うのは、相当勇気がいるだろう。もっともロッド・スチュワートなら堂々と言っても許されそうだが…

このアルバムでは、岡田冨美子さんが書いたオリジナルの日本語詞で歌われている。こちらは女性の目線で、意中の男性に誘ってほしい、じれったい気持ちを歌っている。

♪あなたのそばにいると
  心がしびれてくる
  からだの力が抜けて
  吐く息 ピンクに染まる

歌い出しのこの部分では、ミーちゃんケイちゃんの歌い方は柔らかく軽めで、アメリカ仕込みのウィスパー唱法に近い。そして以下のサビの部分になると、いつものピンク・レディーらしい、生き生きとした力強い歌い方に変わる。

♪じらさないで アタックして
  セクシーでしょう
  あなたとなら 炎になり
  抱き合えそうよ

アメリカでのレコーディングで学んだことを生かし、表現にメリハリをつけて工夫しているのは、さすがは勉強熱心な2人、歌に対する真摯な姿勢が伝わってくる。

3:ウォーク・アウェイ・ルネ

アメリカ録音の前作「ピンク・レディー・インUSA」でもカバーした60年代バロックポップの名曲。楽曲の詳細については以前の記事をご参照いただきたい。

この「ウィ・アー・セクシー」バージョン、前田氏のアレンジは、アメリカ録音バージョンと比べて大きくは違わない。演奏時間は約15秒長く3分20秒である。テンポは、ほんの少しだけゆったり目か。2人のボーカルも、コンサートツアーで歌い込んだせいか、若干余裕が感じられる。


西武球場での映像を観ると、2人はステージから降りて、お互いの腰に腕を回してぴったり寄り添い、曲のテンポに合わせてフィールドをゆっくり歩きながら歌っている。スタンドから投げ込まれる紙テープが、スポットライトに舞う。笑顔でお互いを見つめ合うミーちゃんとケイちゃん。シンプルな演出だが、2人が一緒に歩くだけで絵になるし、なぜか胸が熱くなる。


誰もが知っているピンク・レディーのヒット曲とはだいぶイメージが違うが、このちょっと感傷的な「ウォーク・アウェイ・ルネ」も、青春の日々を共に走り抜けてきたミーちゃんケイちゃんのデュオにふさわしい、心に残る一曲となった。(続く)


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