ピンク・レディーのラスベガス公演(1978年4月)を収録したライブアルバム「アメリカ!アメリカ!アメリカ!」。今回から、収録された個々の楽曲について順に書いていく。

 

その前に少し長くなるが、この年の3月末から5月にかけて、途中でラスベガス公演をはさむ形で行われた全国ツアー「ビバ!ピンク・レディー スプリング・フラッシュ」のプログラムに、ラスベガス公演に臨む2人の思いが掲載されているので、ご紹介したい。

 

ラスベガスで勉強してきます!

 

私達はよく外国へ行って、いろいろな人たちのショーを見てきます。そしてそのたびごとに、私達もあんなふうになりたいとか、あんなステキなショーをやりたい、と思ってばかりいます。それ程私達はまだまだ未熟者なのだと思います。反面、よーし、もっともっと頑張ろう!と、強いファイトがわいてくるんです。ファンの皆さんのためにも、あんな素晴らしいショーを楽しんでいただけるようになりたい!と、心からそう思うのです。今回のラスベガスでのショーは、そんな私達の気持のあらわれなのです。


私達はもっともっと勉強したいし、チャンスがあればそれを十分に活用して大きくなっていきたいと思っています。私達にとって、そうして立派なシンガーになっていくことが、応援して下さっている方たちへの感謝のしるしだと思うからです。“見てください!少し上手になったでしょう?”ファンの方たちにそう言えることが私達の喜びであり、また、そんな私達の成長が、ファンの方の喜びであってほしいのです。ラスベガスでのショーが、私達の自己満足であるとか、世界にはばたくために、とかそんなふうには決っして思っていません。日本のファンの皆さんのために、私達は勉強してくるつもりなのです。これは、とても大きな試練だと思っています。貴重な経験だと思っています。ファンの皆さんのためにも立派なショーにしたいし、帰ってきて、また新しいピンク・レディーを皆さんに見て頂きたいのです。ラスベガスでの勉強の成果を、日本で、皆さんの前で、またお見せできると信じています。


“かわいい子には旅をさせろ”の心境で、私達のラスベガスでのショーを見守っていて下さいね!

(原文ママ)


主語が「私達」になっているのは、おそらく執筆者が、ミーちゃんケイちゃんの談話をもとに文章にまとめたからだろう。多少、事務所のオトナたちによる「作文」が混じっている可能性も否定できないが、当時の他の発言などと照らして、大筋では本人たちの気持ちがきちんと表現されているように思う。

 

上京からわずか2年の間に、社会現象と言われるまでの大ブームを巻き起こし、人気スターの仲間入りをしたにもかかわらず、決しておごることない、謙虚でひたむきな2人の人柄がよく伝わってくる。応援してくれるファンに喜んでもらうために、少しでも上手になりたい、立派なシンガーになりたい、という健気さには、いまさらながらほろりとさせられる。


文脈は全く違うが、これってまさに「半沢直樹」の大和田常務の名セリフ「施されたら施し返す、恩返しです!」ってことだよなぁ…超過密スケジュールに追われる過酷な日々に耐え、新たなチャレンジをし続けた彼女たちのハンパない頑張りの原動力が、垣間見えたように思える。


 

 

1:スター・ウォーズ

 

Ladies and Gentlemen, 

Japans most exciting singing and dancing group, Pink lady!!

 

男性司会者の高らかなアナウンスで、ラスベガス公演は幕を開ける。

 

オープニングはいつものように、インスト曲で始まる。今回は、アメリカ映画を代表する超大作シリーズ「スター・ウォーズ」(Star Wars)のメインテーマを持ってきた。


シリーズの第1作「スター・ウォーズ」(後に「エピソード4/新たなる希望」と呼ばれる)がアメリカで公開されたのは、77年5月。映画は大ヒット、全米にSFブームを巻き起こし、ジョン・ウイリアムズ(John Wiliams)作曲、ロンドン交響楽団が演奏したテーマ曲(<Main Title>)も評判になった。

 

前田憲男氏によるアレンジは、重厚なブラスの響きで始まり、ほどなくリズムセクションとシンセサイザーによる効果音が加わって、ディスコっぽいサウンドに。チャック・レイニー氏のベースが早くもさえわたる。

 

ちなみに、映画「スター・ウォーズ」が日本で公開されたのは、なんとアメリカより1年以上も遅れて、78年6月24日のことだった。ピンク・レディーのラスベガス公演はそれより2か月も早い。それだけPLプロジェクトが、流行の最先端に敏感だったのは間違いないのだが、それにしてもインターネットもなかったあの時代に、日本で公開されていない映画のテーマ曲を前田氏がよく編曲できたものだ。しかも、前述の国内でのコンサートツアー「スプリング・フラッシュ」のオープニングでも演奏されている。これ、果たして日本のお客さんにはわかったのだろうか?

 

…と疑問に思って調べてみたら、なんのことはない、サウンドトラックだけはアメリカで公開された77年のうちに、キング・レコードから日本盤が発売されていた。つまり、アメリカで評判の「スター・ウォーズ」を見られる日を首を長くして待っていた映画ファンなどを中心に、このテーマ曲は日本でも公開前からある程度知られていたという訳だ。それだけすごい映画だったのである。

 

2:ザッツ・ミー

 

さて、いよいよミーちゃんケイちゃんの登場である。派手なブラス全開でハイテンションな「スター・ウォーズ」から、一転してキーボードとフルートの柔らかい音色のイントロが始まる。窓からそよ風がすーっと吹き込んでくるような感覚。ミーちゃんケイちゃんの優しい歌声とハーモニーが響き渡る。アクティブに歌って踊って、というピンク・レディーのイメージを良い意味で裏切る、しっとりと聴かせる選曲である。

 

一世一代のラスベガスのステージ、その最初に歌う勝負曲としては意外だが、PLプロジェクトとしては「これで行こう」という手ごたえがあったに違いない。確かに2人の女性デュオとしての魅力が存分に発揮されていて、非常に完成度が高い。オリジナルにも負けず劣らずの絶品と言ってもよいだろう。

 

原曲はご存知、スウェーデンのポップ・グループ、ABBAの<Thats Me>。もともとは76年にスウェーデンをはじめ欧米でリリースされたアルバム<Arrival>に収録されていた。77年に<Arrival>の日本盤が発売されるのに合わせて、そのプロモーションのため、日本でのみシングル曲としてリリースされた。オリジナルは英語だが、ここではピンク・レディーのライブ盤ではおなじみの岡田富美子さんの日本語詞で披露されている。アメリカの聴衆を前にして、しかも洋楽のカバーなのに、あえて日本語なのである。

 

♪姿かたちは 悪いけれども

 いい人なのよ

 日だまりのような ほほえみ

 そばにいると やすらぐ

 はじめてなの こんな人と

 めぐり逢い ぶつかったこと

 

 何かしてあげたい あなたのために

 つまらないことでも

 笑うでしょう 僕みたいな男に

 なんでなんでと それでもいいの

 気のすむまで あなたに尽してみたいのよ

 

恋をしている女性の気持ちを素直に歌った、心に沁みる歌詞である。原曲の英語詞も女性の目線だが、好意を寄せている男に「私はあなたが思っているような女じゃないかも。あなたが結婚するような女じゃない。でもそれが私なの。ザッツ・ミー」という感じ。自分を謙遜しているのか、逆に開き直っているのか、または男をからかっているのか、やや複雑な心理を歌う。それに対して、岡田さんが描く気立ての良さそうな女の子は、とにかく「好きな男にとことん尽くしてみたい」のである。

 

実は「尽くす」というのは、当時ケイちゃんがしばしば使っていた言葉である。今のケイが恋をするんなら、ただつくすだけだな。つくされるんじゃなくて、つくすの」とか、「ステージって、すごく素敵な恋人って感じよね。冷たくて、一生懸命つくしても、つくしても、なかなかイイ顔をしてくれないしとか。(出典等は、下の記事をご参照下さい)


https://ameblo.jp/kayrose65/entry-12610318906.html


なのでケイちゃん的には、この歌詞に感情移入しやすかったのではないか。もしかしたら、岡田さんもそういうことを知っていて、ケイちゃんを想定して詞を書いたのかもしれない。

 

ラスベガスのステージで、いきなり洋楽カバーを日本語で歌うというのは、一見するとチグハグにも思えるのだが、この曲の場合は、やはり2人の気持ちの入り方も含めて、日本語で歌ったからこそ、言葉の壁を越えて聴衆に伝わるものがあったように思う。


3:メドレー
a)あの娘はアイドル
b)素敵なモーニング・ガール
c)ダ・ドゥー・ロン・ロン

次も日本語による洋楽メドレー。前作「バイ・バイ・カーニバル」の「メドレーⅠ」とほぼ同じ構成だが、前作ではa)の次に歌われていた「思い出のサマータイム」がカットされている。それぞれの楽曲については以前書いたので今回は触れない。(下の記事をご参照ください)

https://ameblo.jp/kayrose65/entry-12616116873.html


このメドレーを2人がステージで初めて歌ったのが「バイ・バイ・カーニバル」、つまり前年末の日本武道館でのコンサートだった訳だが、その時と比べて大分こなれている。テンポも速くなっていて、その分さらに生き生きと歌っている感じが伝わってくる。

音声メディアであるアルバムについて書いているのに、またもはみ出して恐縮だが、このメドレーの2人のパフォーマンスのスゴさは、実は映像を見ないとわからないかもしれない。(このコンサートは日本テレビが当時「木曜スペシャル」で放送していて、その映像の一部は2011年リリースのボックスセット「Singles Premium」のDVDに収録されている。また、同じ番組の一部が、動画サイトにもアップされている。)

前の曲「ザッツ・ミー」では、あえて動きを抑えて、しっとりとハーモニーで魅了していた2人が、このメドレーでは一転して、飛び跳ねるように踊り出す。ラスベガスの観客から、どよめきが上がる。

「あの娘はアイドル」の後半では、ツイストを取り入れた大胆なアクション。舞台を大きく使って、ダイナミックに歌い踊る。かと思えば「ダ・ドゥー・ロン・ロン」のクライマックスでは、ミーちゃんケイちゃんがぴたりと身を寄せ、二人三脚のような形で、テンポがだんだん速くなる(アッチェレランド)のに合わせて、ステップを踏む。まさにピンク・レディーの真骨頂である。

メドレーが終わったところで2人のMC。前述の「木曜スペシャル」では、本番の15分前まで楽屋の鏡の前で、暗記した英語の挨拶を何度も繰り返して練習する2人の姿が映像で紹介された。歌以上に緊張したのではないか。本番では、少し単語が抜けたかもしれないが、堂々と臆することなく客席に語りかけている。

(2人)Good evening, ladies and gentlemen, we are Pink Lady!

(ケイ)We are very very excited, here, tonight.

(ミー)And very happy, too. We hope to share the excitement with you all.

(ケイ)And now we'd like to sing Stevie Wonder's Sir Duke.


という訳で、次回はピンク・レディーのライブではおなじみの「愛するデューク」から。(続く)