ずっと前からみたかったドキュメンタリー、「世界で一番美しい少年」を見ました。

 

1971年の映画「ベニスに死す」で「完璧な美しさ」を持つ少年タッジオを演じて、一躍世界的なスターになった、ビョルン・アンドレセンのその後の人生を追ったドキュメンタリーです。

 

 

日本語のトレイラーはこちら。

 


「ベニスに死す」はヴィスコンティ監督がトーマス・マンの原作を映画化したもの。


中年の芸術家が、15歳の少年の中に「完璧な美」、「見るものを死に導いていく美」を見出し、それに魅入られながら死んでいく、って話です。


70年代の日本で一大センセーショナルとなり、その頃の少女漫画家に多大な影響を与えています。


わたしも漫画経由でビョルン・アンドレセンのことを知りました。


ドキュメンタリーの中で、「ベルサイユのばら」や「オルフェウスの窓」の作者、池田理代子先生が、

 

「こんなに美しい人間がこの世に存在するなんて、と衝撃を受けた。私の周りの漫画家はみんなそうでした。


と語られてますが、その言葉の通りほんとに美しい‥‥。

 




「ベルサイユのばらのオスカルは、彼をモデルにしています」とも語られています。

 

私の初恋のオスカル様。

 

 

 

多分この人も彼がモデルですね。(風と木の詩のジルベール)

 



 中年男が15歳の美少年をねっとり見つめる様が正直かなりキモイのですが、そのキモイ中年男に見つめられる先の少年は、あくまで完璧に美しい。


そのコントラストがまたすさまじい。

 

ビョルンは、特に役者になりたかったわけではないそうです。

 

ステージババともいえる祖母にありとあらゆるオーディションに参加させられて、


たまたまこの役に抜擢された。そして、この映画で一躍有名になります。

 

不幸な子供時代を持つ、内気で繊細な少年が一気にスターダムに上がり、皆の羨望のアイドルになり、映画界の人間にいいようにおもちゃにされてしまう。

 

そして、そのことは彼の人生に深い影を落とす。

 

 今の姿。


ドキュメンタリーは、彼がアパートを汚部屋にしているので、住民から苦情が出て、追い出されそうになるところから始まります。


はじめはかつてのスターの転落の物語か、、と想像してましたが、話はそんなに単純ではありませんでした。


彼は子供の頃、お母さんが精神を患って自殺し、その後は孫を使って自分の夢を叶えることしか頭にない祖母に育てられます。


そのことがまず人生に深い影を落としていて、それが生来の美貌と相まって、壊れそうなこの世のものとは思えないような雰囲気を醸し出している。


そこにヴィスコンティ監督も魅了されたのだと思います。


そして、映画の後は鬱になりアルコールに溺れ 、子供を赤ちゃんの時に亡くし、それが原因で離婚したりと多難な人生を送ります。


そして風雪にさらされた今の姿になるわけですが、ドキュメンタリーで動いて話す彼を見ていると、この人は、思春期のまま変わってないんだなあ、相変わらず内気で繊細で、周りの人が自分の外見に大騒ぎするのにいつまでも馴染めなかった、あの頃の少年がそのままここにいるんだなあ、いうのがありありと見て取れます。


この姿でありながら、なにか非人間的で浮世離れした美しさがあり、物凄い雰囲気がある。



 

 やはりヴィスコンティ監督のお気に入りで、かつて「世界一美しい男」と言われながら、今はジョークのような扱いを受けているヘルムート・ベルガーとは大違い。。



自分の美しさにアイデンティティを見出していない。


自分の美しさに無頓着で、だからこそナルシスティックでなく美しい。


この映画を、自分の映画の成功のことだけが頭にある監督に利用され人生をメチャメチャにされた子供のMeToo物語、と取ることもできますが、


わたしは、やっぱりこの「俗世を超越した美」、「美そのもの」のような彼を見出して、それを記録したヴィスコンティ監督は偉大だなあ、、と変に感動しました。