日本は、海に囲まれた魚介天国であるにもかかわらず、近年「魚離れ」が進行しています。


水産庁の報告によると、『平成9年から19年までの1人1日当たりの魚介類と肉類の摂取量を比較すると、魚介類の摂取量は減少傾向にある一方、肉類の摂取量は横ばいであり、18年にはついに魚介類の摂取量が肉類を下回りました。これを年齢別に比較すると、すべての世代で魚介類の摂取量が減少しており、1~19歳では魚介類の摂取量が2割以上、30~49歳では3割以上も減少して』いるそうです。

 

「魚離れ」の理由には、時間がかかる、下処理ができない、台所が臭くなる、後処理が面倒などの調理したくない理由と、骨があるから、食べるのが面倒、食べるのに時間がかかる、においが嫌、などの食べたくない理由の2局面があります。特に、子供の嫌いな魚の上位にはサバ、サンマ、アジ、 イワシなど鮮度が落ちやすく小骨が多い魚が挙げられています。

 

魚なんか食べなくてもいいじゃないかと思われるかもしれないですが、妊娠時に魚を食べないと胎児の脳の発育が遅れる、幼児期に食べないと、発達障がいのリスクが上がる、成長しても食べないと、血管の炎症が多発して、動脈硬化が悪化、毛細血管の減少が進む、食べずに高齢になると、血管性認知症を含む心臓血管病のリスクが増大する、ことが科学的にわかっています。

 

というのは、DHAとEPAという、魚の脂にしか存在しない高分子オメガ3脂肪酸は、脳の発達、機能維持、毛細血管の機能向上になくてはならないからです。

 

栄養効果はそれだけではありません。

 

魚には、骨形成と脳機能に必須のビタミンDとカルシウムも豊富です。貝類だと、亜鉛、鉄分、マグネシウムなどの体全体が機能する上で重要な役割を果たすミネラル類が格段に豊富です。

 

そこでおすすめするのが缶詰の魚介類です。缶詰だと、下処理いらず、時短で骨もなく、台所も汚れません。工夫次第で、おいしく食べて、必要な栄養素を無理なく摂取できます。

 

Various tinned seafoods

ツナ缶だけじゃない、探せば色々な魚介の缶詰があるぞ(PHOTO: ILIA NESOLENYI / GETTY IMAGES)

 

その一方で、缶詰は体に悪いと思う方が多くいらっしゃいます。その大きな理由は、缶詰の内面塗装に、内分泌かく乱物質(別名;環境ホルモン)の1つ、ビスフェノールA(BPA)が含まれる可能性があることです。

 

プラスチックの原料として使われるBPAは、食器や缶詰・飲料缶の内側のコーティング、ラップなどに使われていましたが、人体への影響があることを受けて、もうすでに多くのメーカーが自主的にBPAの使用をやめていますアメリカで2020年に実施された調査では、95%の缶詰がBPA不使用という結果が出ています。

 

日本の製缶業界も、2008年の段階で既に対策を済ませており、BPA溶出の可能性が高い高温での殺菌を行うものでも溶出量は0.01ppm以下、飲料缶は0.005ppm以下となっています。0.01ppm(約0.01mg/L)は、100gの缶詰に換算すると、約0.001mgです。

 

日本とアメリカでのBPAの「耐容一日摂取量:人が一生の間、毎日摂取してもこれ以下ならば健康に影響しない量」は、体重1kg当たり0.05mg(0.05mg/kg体重/日)なので、体重5kgの幼児なら、0.25mg/日、体重50kgの人なら2.5mg/日が耐容一日摂取量となります。

 

ヨーロッパ食品安全機関(EFSA)が新たに設定した、厳しい耐容一日摂取量0.004mg/kg体重/日だと、体重5kgの幼児なら、0.02mg/日、体重50kgの人なら0.2mg/日が耐容一日摂取量となります。

 

サバ缶100gに入っているかもしれないBPAの量は0.001mg以下ですから、厳しいヨーロッパの規制をも下回ります。ですから極端な話、幼児からサバ缶100gを、生涯毎日食べても問題がないことを理解していただけると思います。

 

もちろん、できれば新鮮な魚介類を食べていただきたいところですが、それが無理なら、サバ・イワシ・アサリの水煮缶、オイルサーディンなどを活用して、脳の発達に不可欠で血管を守るDHAとEPAを摂取していただきたいと思います。