発達障がい食環境支援士取得講座」が始まって約3ヶ月経ちました。遺伝学・栄養学の専門家として、偏食や自閉症スペクトラム障がい(ASD)、発達障がいかもと悩む方たちとの関わりをもとに、実践しやすい「脳のバランスを整える」科学的な手法をまとめた講座で、対面またはオンラインで、どなたにでも受講していただけます。

 今回は、講座の中から抜粋で、「口腔内環境と脳の関係」についてお話しします。

 

ASDの子どもには、しばしば、歯ぎしり、エナメル質の浸食、口内乾燥、食べていなくても噛み続ける行動が見られます(参考文献1へのリンク)。

 

発達障がい児には、特性などにより、偏食気味で、歯磨きが苦手な子どもが多く、口腔内環境が乱れ、虫歯になりやすい傾向にあります。

 

口の中(粘膜、舌、歯、歯茎)の表面にはたくさんの微生物(細菌やウイルスなど)が住んでします。本来なら、これらの微生物が協力して悪い菌を追い出したり殺したりして私たちの健康を守ってくれていますが、口腔ケアがうまくできないと、口の中の微生物のバランスが崩れていわゆる「オーラルディスバイオシス(Oral Dysibiosis)」が起こります(参考文献2へのリンク)。オーラルディスバイオシスとは、直訳すると口腔内毒素症です。良い微生物が作っているコミュニティーが悪玉菌によって侵食されて機能しなくなった状態です。

 

そうなると、虫歯や歯周病だけでなく、脳を含む全身への悪影響が出ます。

 

発達障がい児が虫歯や歯周病になりやすい理由

発達障がい児がオーラルディスバイオシスになりやすい理由には、発達障がい脳が、口腔内ケアをやりたがらない、偏食、免疫機能への遺伝的関与、しょっちゅう手指を口に入れるなど行動が考えられています(下の図を参照)。

 

 

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Olsen I, Hicks SD. Oral microbiota and autism spectrum disorder (ASD). J Oral Microbiol. 2019 Dec 12;12(1):1702806. 

口の汚れが作る発達障がい脳

発達障がい児の口腔内では、定型発達児に比べてある種の菌と菌に寄生するウイルス(バクテリオファージ)が増えることが報告されています(参考文献3へのリンク)。

 

口腔内で悪玉菌が増え、炎症が起こると、炎症物質が血管や臭覚神経系を経て脳に送られると、脳内にも炎症が起こります。

 

増えた悪玉菌が腸管に送られると、腸内微生物が作るコミュニティにも影響を及ぼします。腸内で作られる、脳に送られる代謝物や神経伝達物質の種類と量のバランスが崩れることで、脳の働きに影響を与えると考えられています(下の図参照)。

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Olsen I, Hicks SD. Oral microbiota and autism spectrum disorder (ASD). J Oral Microbiol. 2019 Dec 12;12(1):1702806. 

口の中の表面は、歯が25%で、舌や喉などの粘膜が75%を占めているため、歯だけを磨いても口の中を清潔には保てません。食後にデンタルフロスで食べかすを取り除くことも重要です。唾液が十分出ていると唾液の殺菌作用で正常に保てますが 、唾液が少ないと口腔内環境が悪化します。

 

発達障がい児への2つのアプローチ

1つ目は、特性に合わせた口腔ケアです。やる気がないだけなら、電動歯ブラシ、味が嫌なら歯磨き粉なし、ブラシが嫌ならお母さんの指にガーゼを巻いてなど、特性に合わせた対応が必要です。日本障害者歯科学会のサイトから、お近くの専門医を検索して助言をいただくことをお勧めします。

 

2つ目は食品による口腔ケアです。砂糖の制限や、唾液を出すために「よく噛む食品」、食事の最後にチーズをよく噛んで食べるなどたくさんのアプローチがあるので、次回のブログで詳しく紹介しますね。