誰もが怖がるがん。ちまたには「がんと戦う」、「がんを消す」、「がんに負けない」といったタイトルの記事や書籍があふれています。

 

その中には、高名な医師の著作も含まれ、「〇〇先生の言うことだから間違いない!」と、多くの人が思うかもしれません。でも本当にそうでしょうか?

 

京都大学名誉教授の外科医の著書、『がんに負けないからだをつくる 和田屋のごはん』は、読みやすくレシピも豊富で素敵な本ですが、栄養学的には正しくないことが多く書かれています。

 

例えば、「牛乳、バター、チーズなどの乳製品には、がん細胞の活動活性を上げるIGF-1(インスリン様成長因子)が多く含まれるので、乳製品を摂らない」と書かれていまが、これは間違っています。

 

IGF-1とは、インスリンに似た働きのあるタンパク質で、筋肉を作るのに不可欠なホルモンである反面、がん細胞を活性化することが知られています。

 

IGF-1は、動物性のタンパク質だけでなく、大豆タンパクでも過剰摂取すると増えることがわかっています。言い換えると、乳製品も大豆もIGF-1への影響は同じなので、乳製品を摂らない理由にはなりません。

 

おそらくこの先生は、90年代に話題となった、rBGH(遺伝子組み換え牛成長ホルモン)を注射された乳牛のミルクに関する文献をお読みになったのでしょう。rBGHは乳牛のIGF-1を上げることが知られていますが、日本ではrBGHの使用は認められていないので気にする必要さえありません。

 

アメリカでのrBGH使用は、法律的には可能ですが、アメリカの大手乳業、スーパーマーケットでは、rBGHを使用した牛乳および乳製品を全面的に禁止しています。オーガニック製品にも使用できません(参考資料)。

 

さらに、IGF-1はインスリンと同じくタンパク質でできているので、消化管の中で分解されてホルモンとしでの効力を失います。糖尿病患者さんがインスリンを注射するのはそのせいです。


つまり、食品内のIGF-1はがん細胞に影響しないので、がん患者さんが乳製品の摂取をやめても何の得もありません

 

牛乳やヨーグルトは安価でお年寄りにも食べやすい大切なタンパク源です。タンパク質不足は、サルコペニア(加齢とともに筋肉が減る現象)の原因となり、高齢者の生活の質を大きく下げます。

 

がん患者さんには、タンパク質の摂取量を下げる場合ばありますが、その場合は、乳製品、肉類だけでなく大豆、糖質、炭水化物にも制限がかかります

 

この著者は優れた専門医でいらっしゃると思いますが、栄養学の専門家ではありません。乳製品を避けたとしてもがん予防にはならないし、がんの進行を抑えることにもならないことを知っていただけると幸いです。